【アメリカ映画】ハリウッドアレルギーのワイがハマったアクション映画「ウォンテッド」は春に観るべし!

【アメリカ映画】ハリウッドアレルギーのワイがハマったアクション映画「ウォンテッド」は春に観るべし!

毎日の生活がマンネリ化している方、または新しい環境に馴染めず5月病に陥っている方におススメな、2008年公開のハリウッドアクション映画【ウォンテッド(WANTED)】を、なるべくネタバレしないようにご紹介します。特にダメ人間と中学2年生に刺さる映画です。(ただしR 15+)

さらっと紹介するつもりが、言いたいこと言っていたら1万3千字をオーバーしちゃいました。お覚悟はよろしくて?

前置き

個人的にハリウッド映画が苦手

いや、クオリティも高くて、面白くて、いい映画たくさんあるんですけどね。なんか…「問題発生→世界ヤバイ→家族が気まずくなるラブシーンちょっと入る→派手な作戦で解決→ハッピーエンド」っていう流れがね、もうね……ダメなんですよ。映画始まって何か問題発生したり、悪い奴が出てくると「どうせ解決しちゃうんでしょ!」ってひねた感じで見始めて、だいたい最後に「やっぱ解決したじゃ~ん! もう~ハリウッド映画かよ!」ってツッコむはめになっちゃうのが苦手です。

殺し屋モノが大好物

記憶が定かではありませんが、どこかの雑誌か何かでどなたかが書かれていました、【殺し屋はオカルト最後の砦である】と。伝説のネッシーもフェイクであったことが明らかになり、ツチノコも河童もビッグフットも、決定的な証拠はいつまでたっても出てきません。ですが【殺し屋】は、「いそうでいない」「いなさそうでいる」どちらとも言い切れない、”ファイナルファンタジー”なのです。私の原体験としてはテレビでやっていた時代劇「必殺シリーズ」が大好きになり、そこから「殺し屋」と名のつくものは、片っ端からチェックました。

殺し屋モノ>ハリウッド

予告に出てくる「暗殺者組織」というキーワード、もうこれだけで観に行く気マンマンでしたが、「ハリウッドかーーーっ!」と葛藤したおぼえがあります。アンジェリーナ的な人や、モーガン的な人など有名な役者さんが出ているということも、個人的にはマイナスに働いたのですが、なんか銃のデザインもかっこいいし、「失敗してもいいから殺し屋モノは押さえておかねば!」という謎の使命感に駆られ映画館へ行きました。

で、観てみたらスッゲェ面白かったのでDVDも買っちゃったよ!…という映画です。

WANTED 基本情報

基本情報です。全国ロードショーもされたし、見た人結構多いですよね。

●アクション映画 2008年 アメリカ 110分

●R15+

●監督:ティムール・ベクマンベトフ

●主演:ジェームズ・マカヴォイ、アンジェリーナ・ジョリー

●原作:マーク・ミラー(原作)とJ・G・ジョーンズ(絵)の漫画

●現代、アメリカのシカゴが舞台

●後日談という設定のゲームもリリースされる「Wanted: Weapons of Fate」

あらすじ

25歳の青年ウェスリーは、恋人を親友に寝取られ、職場では上司から噛み付かれ、ストレスをつのらせながら不安発作用の薬を処方してもらう毎日。しかし、そのサエない日常が、フォックスと名乗る謎の美女の出現で終わりを告げる。彼女は、1000年以上も前から崇高な目的のために暗殺任務をこなすフラタニティ(暗殺組織)のメンバー。組織の裏切り者クロスを倒すため、彼に殺された暗殺者の息子ウェスリーに白羽の矢がたったのだ。こうして彼はそれまでの人生から想像を超えた別世界へと身を投じることに。特訓は苛烈を極めたが、彼は試練を乗り越え、暗殺者としての潜在能力を開花させていくのだった。しかし、彼はやがてフラタニティに隠された衝撃の事実を知ってしまう・・・! (原作 – Wanted)

引用:YouTubeムービーより

厨二スイッチ爆押し設定

さえない主人公の前に、突如現れた美女が「あなたには特別な能力がある」と言う。そして過酷な修行を経て、1000年続く暗殺組織のメンバーとして活躍する。もう少年マンガのような、厨二大好き設定ですよね。よくありそうな話ですが、大人になってもやっぱりワクワクしちゃう設定です。

「WANTED」とは「指名手配」「お尋ねもの」の意味。前半は組織の裏切り者であるクロスがお尋ね者、後半は………? ここがストーリーのポイントです。

■ウォンテッド (日本語吹替版) YouTubeムービー:¥400で48時間レンタル

■Amazonレンタル¥199/48時間 ウォンテッド(字幕版)

現在、公式サイトとかはありません。昔あったような記憶があるのですが…

この映画の良いところ

見どころをいくつか紹介します。

荒唐無稽でもやりきればかっこいい

設定もアレですが、アクションシーンもかなりトンデモ系

・拳銃で飛んでるハエの羽だけを正確に打ち抜く

・高層ビルの中から助走つけてガラスぶち破って隣のビルに飛び移りながら3人仕留める

・隣町くらいの超々遠距離からの狙撃を命中させる など

でも、それらをスロー&クイックモーションや巻き戻し、CG等でとてもスタイリッシュに描かれていて、「ウソーーーん!!」と思いながらもグイグイ引き込まれる魅力的な映像に仕上がっています。

狭射…じゃなくて曲射!

中でも有名なのが、手首のスナップを効かせながら銃を撃つと、弾丸がカーブするという超絶テクニックです。これを体得すると、物陰に隠れている敵を撃てます。はっきり言って銃撃戦で無敵です。これを防ぐには、自分も弾丸曲げて相手の弾丸にぶつけるしかありませんが、それもできちゃいます。

ちなみに海外の「MythBusters」というテレビ番組で、この技が実現できるかいろいろ検証したみたいですけど、ダメだったようです↓

分かりやすさ・無駄のない構成

これは個人的な感想ですが、【アクション映画は】という条件付きで、「退屈なシーンがない」「話についていけなくなりそうな難解さはない=分かりやすい」「不自然な解説セリフやシーンがない」などの点で、完成度の高い構成だと感じます。これは監督の腕でしょうか。

例えば主人公ウェスリー君(ジェームズ・マカヴォイ)の成長ぶりを表現する、あるシーンが上手いなぁと思いました。ウェスリー君は劇中で2回、カーチェイスシーンで車ごと空中横回転するんですが、どちらもスローモーションで「ア~イム ソ~リ~!」と言います。

1回目は、まだヘタレの時のウェスリー君、美人殺し屋のフォックス(アンジェリーナ・ジョリ姉さん)に振り回されて、半べそかきながら「迷惑かけてごめんなさ~~い!」って感じの「アイムソーリー」

2回目は、一人前に成長したウェスリー君、防弾車で守られた標的をサンルーフから狙う時に、自信たっぷりの表情で「ハイ残念、悪いが死んでくれ!」って感じの「アイムソーリー」。完全にコイてますが、成長っぷりがこの比較でわかりやすく表現されています。

ハリウッドっぽくないシナリオ

ネタバレになるので、あまり具体的には言えませんが、一見「友情・努力・勝利」っぽく見えますが、実は「努力」しかないところとか、私が苦手とする所謂ハッピーエンドではないところとか、展開がハリウッドっぽくないんです。

マンガ原作はイギリスの方、監督はカザフスタンの方で、はじめから「ハリウッド的予定調和をぶっ壊してやろうぜ!」みたいなコンセプトで作り始めたんじゃないかなって気がします。この点についての詳しい解説は、後述します。

でもね、しっかりとした「娯楽映画」になっていますよ。そこはプロデューサーがアメリカの方だからでしょうかね。

ドM歓喜!リアルなバイオレンス描写

ウェスリー君は、暗殺組織フラタニティに入ってスゴ腕の殺し屋になるため、過酷な訓練を受けます。

まずイスに縛られたウェスリー君は、「修理屋」と呼ばれる先輩からフルボッコにされます、毎日。超痛そうです。これは殴られる痛みと恐怖を克服する目的だそうです(原作より)。映画では、フルボッコ前に修理屋が質問します。「なぜここへ来た?」と。これの回答が不正解だと、フルボッコタイムに突入です。ウェスリー君は、毎日色々な答えを言ってみますが、ついぞ修理パイセンの前では、正解を言うことはできませんでした。

ナイフ格闘術を教えてくれる「ブッチャー先輩」は、もっと容赦ありません。初回の講習で、ウェスリー君にナイフを持たせて、自分の胸にそれをあてがい、「オレを刺せ」と言ってきます。頭おかしいです。当然ウェスリー君は「できない」と言いますが、ブッチャーパイセンが何度か「腰抜け」と煽ると、「や…やったらああああ!」と刺そうとします。ブッセンはそれを鮮やかに躱し、逆にナイフを奪って、押さえつけたウェスリー君の手の甲にブッスリと突き立てます。貫通です。その時のウェスリー君の悲鳴がリアルで極上です!ここ必見です。「ああ…そんなんされたら、そう叫びそう!ご愁傷SUMMERRRRR!」

あとは、ジョリ姉にも目ん玉飛び出るくらいシバかれます。その時のウェスリー君が心なしか嬉しそうに見える……のは気のせいかもしれません。

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原作について

wantedパッケージ
WANTEDコミックス版の表紙カッコええ!

原作紹介

原作は、マーク・ミラーさん(原作)とJ・G・ジョーンズさん(絵)のグラフィック・ノベル(マンガ単行本)でアメコミです。映画と漫画ではだいぶ内容が違います。その違いの理由を考察するために、まずは日本と海外の漫画文化の違いを説明します。映画そのものとは関係ないので、すっ飛ばしてもOKです。

アメリカン・コミックスの特長とは?

日本の漫画とアメコミ、ついでにフランスの漫画「BD」についての主な違いをわかりやすく表にしてみました。

漫画(MANGA) アメリカン・コミックス バンド・デシネ(BD)
主な国 日本 アメリカ フランスとかベルギー
作品の主な発表形態 週刊または月刊で刊行される「漫画雑誌」に複数作品が1話づつ連載される。話数が溜まったら単行本が発行される。 1話づつコミック専門店で販売。それらをまとめて単行本「グラフィック・ノベル」として販売することも。 昔は雑誌連載→単行本。最近は単行本ごとに書き下ろし販売(1作品を1年に1冊くらい)。BD専門店あり。
読み方 右から左(セリフ縦書き) 左から右 左から右
モノクロ フルカラー フルカラー
主な制作体制 基本は一人。原作と絵で別れることもある。アシスタントを雇い作画・仕上げを分業することが多い。写植は編集者の仕事。 工程ごとに分業することが多い。原作者、下書き「ペンシラー」、ペン入れ「インカー」、彩色「カラーリスト」、文字「レタラー」 基本一人が多い。分業することもある。
ジャンル いろいろ。学園・スポーツ・恋愛が他国にあまりない。 ヒーローもの多い。 日本で有名なのはSF。他にもいろいろあるらしい。
特徴的な表現 目でかい ムキムキ 芸術性高い
世間の評価 【中】 お母さんに「漫画なんか読んでないで勉強しなさい!」と怒られる。 【低】 「コミックは子供に有害!」と強い規制を受けた。いまだに認知度は低いが、最近のヒーローもの映画で少し見直し。 【高】 「9番目の芸術」とも呼ばれる
著作権 作者 「出版社」という時代が長かった。作者が著作権を持つ「クリエイター・オウンド」というシステムができたが、原稿料・発行部数などでデメリットも。 たぶん作者
有名な人 手塚治虫(1989年没) ジェリー・シーゲル(1996年没:スーパーマンの原作者) メビウス(2012年没)

アメリカン・コミックスの悲哀<その1>

アメコミも昔はヒーローものだけではなく、ダークなものやホラーなどいろいろなジャンルがあったそうです。ところが暴力や流血する漫画が人気になりすぎたので、一部の政治家や団体による「漫画は子供に有害!規制を!」という声でモラル・パニックが起こり、多くのダーク漫画や弱小出版社は消えてなくなりました。

その時生き残った大手出版社が、主にヒーローものを刊行していた出版社だったのです。ヒーローものであっても厳しい規制と検閲を通って出版されたのですが、【アメコミ=スーパーヒーロー】というイメージは、こうした悲しい背景からやむなく定着してしまったイメージなのです。

私の勝手な偏見と想像ですが、今でも大人のアメリカ人が解釈する「コミック」とは、「わかりやすい正義VS悪の話で正義が必ず勝つ」ものであり、あくまでも子供向けの文化。大人でアメコミ買う人は、日本で言うと【ウルトラマンとか仮面ライダーみたいな特撮ものを毎週かかさず見て、おもちゃとかも買っちゃう大人】みたいな感じで見られているのではないでしょうか。(いや、大人がウルトラマンにハマっても全然OKですけどね)

アメリカン・コミックスの悲哀<その2>

蔑まれた文化(言い過ぎ?)「アメリカン・コミック」のもう一つの悲哀は、その【著作権システム】にあると考えます。上の表の「著作権」の部分にも書きましたが、漫画作品やキャラクターの著作権が、作者本人ではなく出版社に帰属するのです。(本人に帰属する制度も生まれたがだいぶ後から)

出版社がキャラクターなどの著作権者となり、いろいろな作家に話や絵を委託し職務として描かせるのです。スーパーマンとかX-メンとかが、シリーズによって異なる作家で描かれているのはこのためです。こんな環境であれば、文化は育ちにくいと考えます。どんなにヒットしてもしなくても、給料変わらないんですから。「面白い作品作ってやろう」という作家は少なかったでしょう。

で、「面白い作品描きたいんだが出版社に搾取されるのはイヤだ」という人たちが【クリエイター・オウンド=著作権利は自分に】制度でアングラ出版をやり始めました。ほぼ自費出版みたいなもんでしょうね。(ハイリスク・ハイリターン)

著作権法も改正されたりと、今はだいぶ変わってきたみたいですが、発行部数や広告宣伝、原稿料の面で大手出版社の職務著作を選ぶ作家さんもいるようです。(ローリスクローリターン)

で、WANTEDってどうなの?

原作のマーク・ミラーさんは、はじめは大手出版社で職務著作で作品を作っていました。で、ある程度人気作家としての評価を得てから、クリエイター・オウンド作品を作り始めました(賢い)。作品は売れて、自身で出版社を立ち上げる程の成功を収めました。

WANTEDは、その「ミラーワールド」という出版社が立ち上がってすぐの作品です。大変に反社会的で、言葉遣いもちょっとアレな内容です。従来の社会的評価「コミックは子供のもの」、著作権システム「大手に搾取される」などの価値観も含んだ、アメリカン・コミックスの定型「勧善懲悪文化」のアンチテーゼが爆発しちゃったような、「描きたいもの描いてやったぜ!」臭がプンプンします。結果、斬新な切り口は評価され、このように映画化もされました。

私が「ハリウッドっぽくないなぁ」と感じた理由は、こんな背景があったからかもしれません。

原作と映画でかなり違うシナリオ

漫画版と映画版ではだ~~いぶ内容が異なります。もうね、「佐々木小次郎は耳が聞こえなかった」レベルではない程、話の根底から大きく設定が違うのです。逆に「共通点少なっ!」ってびっくりするくらい共通点少ないです。

解釈変えすぎじゃね?

「アメリカン・コミックスのアンチテーゼ」とか言いましたが、漫画版WANTEDにはスーパーヒーローとかヴィランとかが出てきます。ていうか「フラタニティ」は、スーパーヴィラン達で構成される犯罪組織で、「運命の織機(後述)」もなく、「世界の秩序を守る(後述)」なんて目的もなく、ただただ悪行を行い、さらには次元移動ができたりと、SF的な側面も持っています。そのくせ弾丸は一切曲がりません。(笑)

「伝説の殺し屋が殺されるという導入」「フラタニティの内輪もめという構図」「父と子の絆がテーマ」くらいがシナリオとしての共通点であり、その他は見事に別物です。日本だったら原作者が怒り出すレベルでしょう。そうそう、「ドラゴンボール」とか「北斗の拳」とかを思い出してもらえれば良いと思いますよ。

たぶんそういう「文化」なのです

全然違う話に変わっちゃって、原作者のマーク・ミラーさんはプンプンかというと、全然そんなことはなく、DVDの特典映像内のインタビューで、「監督も役者も素晴らしい!すごく良い映画ができたからみんな見てね!」って感じのこと言ってました。

これはやはり前述の「職務著作文化」が影響していると推測します。マーク・ミラーさん自身も大手出版社時代、他人が作ったキャラクターを使って、新しい解釈のストーリーをたくさん創作してきた経験があります。なので、逆に自分が作った作品を変えられることにも、さして抵抗がないのではないでしょうか。

これはもうアメリカ全体の「文化」と捉えます。漫画から映画へとジャンルが変わる時点で、主導権は映画配給会社と監督に移管され、漫画・出版社側は「自由にアレンジしていいよ~~」てな感じでね。

WANTEDは映画の方が良いと感じるのは日本的だから

漫画版と映画版でだいぶ内容の異なるのWANTED、漫画版は漫画版で面白いですが、純粋にシナリオを比較したら、日本人としては映画版の方が面白いと感じます。(当然後攻の有利はありますが)

しかしアメリカ人にとっての【ウマコン度】は、漫画版の方が高いでしょう。なにしろスーパーヒーロー全員が、実は───ネタバラサナイ───だったんですから。スーパーヒーロー文化がない(薄い)日本では、これがピンと来ません。

逆に「必殺シリーズ」や「ブラックエンジェルズ」などで「悪を裁く暗殺者集団」という下地ができている日本人にとっては、映画版の方がだんぜん なじむ! 実に! なじむぞ!、なのです。

そう、映画版の脚本はとても日本的だと思うのです。

「裁けぬ悪を裁く殺し」とか「ウェスリー君、初めての殺しに躊躇する」とか「大誤解で父を狙う」とか「ジョリ姉の自己清算強要ショット」など、わりと日本人の琴線に触れるシーンが多い気がします。漫画版のウェスリー君の初めては、ぜんぜん躊躇してなくて、「ゴムなしでマリリン・モンローとやった気分だぜ」とか言ってます。ただの鬼畜です。

ちなみに映画版WANTEDの脚本3人のうち、デレク・ハース(Derek Haas)氏がキーマンではないかと勝手に推測します。原案にも名を連ね、殺し屋を題材にした小説ばっかり書いてます。翻訳されたら読んでみたいなぁ。

「漫画を実写化」の成功例

日本の漫画を映画(実写)化するとだいたい不評で、アメコミの映画化は、あんまりそういう不評が出ません。なんででしょう?

日本作品実写化の「コレじゃない感」

日本の原作ファンは、徹底的に原作(またはキャラクター)の再現性を求めます。もともと二次元の作品を三次元にするので、そこには基本無理しか生まれません。仮にキャラクターやシナリオを100%再現できたとしても、「まんまじゃん」となっちゃいます。で、さらに映画って2時間に収めないといけないので、いろいろ大事な描写を割愛せざるを得ません。原作を超える感動を実写化で産むのは至難の業です。(アニメ化はまた別)

実写の魅力の一つは、「リアルな役者の演技」です。ですが、どんなに上手い役者が死ぬ気で演技しても、ファンの脳内では人が演技する以上の再現と感動ができあがっているので、特に名シーンほど「コレジャナイ感」が発生してしまいます。それなのに、顔がいいだけのアイドル役者を……(自粛)

なので実写版は、脚本に新しい設定や解釈を加え、「映画版としてのオリジナリティ」をもって原作を超える感動を狙うしかないのです。たいてい失敗しますけどね。(暴言)

アメコミファンは納得しているのか?

WANTEDは、実写化にあたってかなり大胆に脚本を変えてます。原作ファンはどう思ってるのでしょう?「ヒーローもヴィランも出てこないじゃん!こんなのWANTEDじゃねーよ!!」って言っているのでしょうか?

YouTubeのコメント1,000件くらい見ましたが、「漫画とぜんぜん違ウ!漫画どうりのストーリーで作り直しキボンヌ!」って感じのコメントが1個ありました。「漫画と映画ぜんぜん違うよ」くらいのコメントが数件ありました。まあ、炎上ってほどの反応はないですね。でもやはり原作ファンは「コレジャナイ感」を感じているのでしょう。

結論1:どっちから先に見るか+人気作ほど高リスク

まあ、当たり前の話なんですが、原作知らずに実写化映画を先に見たら、映画の方を「面白い」って思うかもですね。我々がスーパーヒーローの実写化映画を違和感なく観れるのは、原作を知らないからだと思います。

だからね、原作が人気作であればあるほど【コレジャナイリスク】は高くなるはずです。原作ファンの集客は見込めますが、評価が悪けりゃすぐ動員に影響するでしょう、最近はSNSもあるしね。なので、解決策を提示します。あまりみんなが知らない短めの原作を、超大胆に解釈変えた脚本にして、演技の上手い(ここ大事)役者で撮ってください。簡単に言うな、ですよね。すいません。でもWANTEDがこのパターンなんですよね。

結論2:映画は脚本、漫画は日本

せっかくの機会なので、もう一つ毒吐きます。

WANTEDは、映画が面白かったので原作読んでみたら映画の方が面白かった……日本のそういうのは、たいてい原作の方が面白い。面白い=優れている、と言ってしまってもいいか思います。

これは、前述したアメリカン・コミック文化の歴史によるところも大きいとは思いますが、日本の漫画はエンターテイメントコンテンツとして、世界のそれに比べてかなり成熟しているのです。認知度、ジャンル幅、作家数、作品数、ゲーム・アニメ化・コスプレなどのクロスメディア浸透率など、たぶんこんなレベルで発展しているのは日本だけだと思います。何が言いたいかっつーと、

安易な実写化ヤメロ

ですよ。原作知らずに観た人が「映画面白い!原作も読んでみたい!」と思えるような実写化なら良いのですが、原作の評価も下げかねない実写化は……もう!×××××××だからねっ!! 日本、配給力弱いし……

す…すいませんっ、言いすぎました! いろんな業界の方ゴメンナサイ!

とにかくWANTEDは漫画の実写化成功例だ、という話がしたかったのですが、いろいろ話がそれました。すいません。

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考察:暗殺会社は成り立つのか?

話は荒唐無稽ではありますが、シナリオはとても分かりやすく、あまり分析・考察する余地はありません。が、私の大好きな「暗殺者組織」という観点で少し考察してみようと思います。

暗殺事業の成立分析

ぜんぜん映画とは関係ありませんが、そもそも殺し屋という職業が専業で成り立つものなのでしょうか? ずっと前から気になっていて、夜しか寝れません。

ゴルゴみたいな一人で完結する殺し屋ではなく、複数人数で運営される企業のような殺し屋会社が成立するかどうかです。

レーダーチャート作ってみましたが、まず「需要」としてちょっと厳しい。車より単価安いのにリピートがほぼありません。そもそもの客数も少ないでしょう。「持続性」もやはり厳しい。税金納めないので利益率は突出して高いものの、社会としての必要度合い「公共性」はほぼナシ、なにより、いつバレて摘発されるかわからないので「事業安定性」はゼロです(リスク100%)。

事業内容レーダーチャート
あくまで平均的な感覚値です。

まあ、歪(イビツ)です。非合法ビジネスとして、短期的に成り立ちえるかもしれませんが、マーケティングと需要確保の難易度、および情報漏洩&摘発リスクが高すぎて、持続的な事業経営はほぼ不可能に思えます。フリーランスで、かつ副業としてなら可能性あるかも……とも思いましたが、やはり日本では厳しいでしょう。

映画版の「フラタニティ」について

今から一つネタバレします。

映画版のフラタニティは、暗殺組織としてはちょっと斬新で特殊な組織体です。

表向きは紡績工場で、けっこうな数の従業員がいます。きちんと事業所(工場)があり、実際に織物製品も製造・販売しているようです。ここへ通勤している人もいると思いますが、この工場で暮らしている人もいるようです。従業員全員が暗殺者というわけではありませんが、何かしらの関係者で、新人育成システムもきちんと整っています。ゲーム版WANTEDでは、世界にいくつか支部があるとも表現されています。

この工場の中には、【運命の織機】という機械があり、24時間?ずっと布を織ってます。で、たまに上糸と下糸がずれる「織りミス」が発生します。これを虫メガネで調べて、織りミスの位置を2進法に変えてアルファベットに変換?すると、人の名前が出てきます。これが暗殺すべき人物の名前なのです。

ここに名前が出てくる人は、この先他人を不幸にするであろう悪人なのです。暗殺する時点では悪人ではない場合もありますが、「1を殺して1000を救う」という哲学をメンバーは信じていて、「世界の秩序を守る」という崇高な目的のもと、フラタニティは、1000年以上も暗殺を続けている組織なのです。

従来の「誰かから依頼を受けて暗殺を行い金銭を得る」という殺し屋ビジネスモデルとは、まったく違うシステムなのです。

コレ新しい!

このシステムは、前述の「需要確保問題」を解決します。依頼者がいないということは、情報漏洩の心配もありませんしね。織機を動かしておけば、どんどんターゲットが勝手に発生するのです。(原理もペースも不明ですが)

だがしかし!

収入どうしてんのコレ? 表の紡績商売だけでは、ウェスリー父ちゃんの遺産額が説明できないし、武器購入費とかも厳しいでしょう。

資金源を勝手に妄想します。

①支援団体がある

②インサイダー取引

③ターゲットの資産などを強奪

劇中では、ウェスリー君の預金が口座から勝手に引き抜かれてました。IT面も強そうです……

あと、こういう移転が効かない拠点があるということは、人やモノを隠せるメリットはありますが、バレたら一気に攻められてしまう弱点があります。映画後半では、この弱点を突かれてしまいます。でもそうなるまで、1000年も継続できたなんて、よほど慎重に活動してたんでしょうね。

または国家権力にパイプがあるとか……

…とまあ、かなりの有利な条件(安定需要確保もしくは別口からの資金+リスク軽減策)を構築しない限り、持続的暗殺会社なんてものは成り立たないと思われます。

考察:運命の織機と決定論

過去は当然変えられませんが、未来は無限の選択肢・可能性があって自由なものでしょうか? 実は未来も可変できない一意の結果で予定(決定)されている、という説があります。【決定論】と言います。未来は決まっているのか?決まっていないのか? 昔からそれが気になって夜しか寝れません。

フラタニティの真の力は未来改変能力

殺すべき悪の名が示される「運命の織機」。これちょっと面白いですよね。

劇中でジョリ姉幼少期エピソードが語られましたが、たくさん悪いことをしたら名前が出てくるのではなく、将来たくさん悪いことをするであろう悪人の名前が、悪いことをする前に出てくるのです。

そうです、未来予知です。

この予知は完璧なのでしょうか? 結局フラタニティメンバーが対象者を暗殺することで、多くの不幸が未然に防がれ、予知は外れることになります。そういう意味では完璧な予知とは言えません。「ホントにコレ信じて大丈夫?」って何度もなったと思いますが、その度検証して正しいことは証明されたのでしょう。そうでなければ1000年も続かないと思います。

ここだけ見ると、「織機の予知は絶対」だが「暗殺でそれを回避できる」ので、未来は決まっていない(=変えられる)ように見えます。

未来は完全に決まってはいない?

で、注目したいのは織機で名前が示されるタイミングです。

映画ではだいたい大人がターゲットになっています。しかもすでに権力とか持ってて暗殺しにくそうな立場になってる大人です。「織機の予知が絶対」であるなら、もっと暗殺しやすい子供の時、なんなら生まれてすぐ示せば良いのに、と思います。

このことは、未来が決定していないことを示唆しています。

生まれたばかりの時点では断罪されるべき悪人だとは断定できず、その後の育ち方によっては、いい人になるかもしれない可能性を含んでいるからです。成長して、主義や哲学や環境が悪い方向に偏って定まり、多くの他人に不幸を及ぼすであろう確率が、ある一定ラインを超えた時に「運命の織機」は初めてその名を紡ぎ出すのです。

なので、この劇中設定において、未来は決まっていない(非決定論)、または確率に支配される限りにおいて決定している(確率決定論)ことが読み取れます。

運命の織機の不完全性

フラタニティが暗殺を失敗することもある、実際の歴史を振り返ると暗殺すべき対象がめっちゃいた、など「運命の織機(またはそれを司る超常的な存在)」は、未来が決定していないという前提もふまえて、悪人殲滅装置としてはかなり不完全なシロモノであると言わざるを得ません。

でも、その不完全さが面白い!

悪人断定装置としては完全だが、あくまでも断定までで、それにどう対処するかは人間次第───。その完全情報に翻弄される人間ドラマが、映画版WANTED脚本真の面白さだと思います。

あなたが暗殺ターゲットになったと想像してみてください。「なんかぁ~、織りミスを独自ルールで変換したら~、あんたの名前が出てきたんだよね~。ここに名前が出てきたら、悪い人ってことなんですぅ~。死んでね、てへぺろ。」なんて言われて「ハイ分かりました」なんて、とうてい納得できませんよね。

ワタクシ実は、未来については一意的に決定している「完全決定論」派なんです。

言っちゃった。テヘ。

でもね、この映画見て「確率決定論」かもって少し思っちゃったの。 え?……か…勘違いしないでよねっ!(汗)す…少し傾いただけで、完全派は変わらないんだからっ!

あ、今面白い解釈思いついちゃった。

『スローンって実はフラタニティを終わらせたかったんじゃね?』って説。………ん~でも、これ書き出したら超長くなりそうなんで、またの機会にします。

まとめ

この映画は、バンバン人が死んで、けっこうグロくて、救えない話だったりするのですが、「未来を変える力なんてない、サエないワイにも…何かができるかもしれない!」という【やる気パルス】を受け取ることができる、意外とポジティブなアクション映画です。

え? ウマコンじゃないって?

ちゃんとありますよ、トラウマポイント。

■トラウマポイント

・ウェスリー君の射撃訓練時、本物の人間の死体が用意されます。「死体は撃てない!誰かの母親かも!」って言ったとたんにジョリ姉が……

・ネズミが大量に出てくるシーンがあります。ドラえもんにとっての最恐トラウマ映画。

・ウェスリー君の吹き替えがしょぼくて叩かれ過ぎたDAIGOさんにとってトラウマ映画。

■キュンキュンポイント

・ラストの方でウェスリー君の上半身裸シーンがあります。「あら…ヤダ、脱いだら意外と…スゴイのね…」感があります。

■ジョリ姉さん補足情報

①刺青は本物…GOOD!

②最後の自己清算強要ショットは、ジョリ姉のアイデアらしい…NICE!

③続編の企画が持ち上がったらしいがジョリ姉が「やんない」って言ったのでなしに…COOL!

■見た人はわかる、多少の突っ込みどころ

・そもそも弱点になるような子供作ったらダメじゃない?

・ジョリ姉、ドラッグストアのレジで殺し屋の話しちゃダメじゃない?店員聞いてるよ。

・運命の織機、同姓同名はどうすんの?

・最後のジョリ姉ショット、みんなの身長差は?

・最後にスローンがおとりウェスリーに近寄る時、床にマーカーなかったよ。

ま、でもそんな細かいところ気にならないくらい一気に楽しめる、良いアクション映画です。

毎年春くらいに一度は見ているので、今回紹介してみました。

おしまい

「良い子は、早く離脱して寝なさい!」


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※本記事は、ウィキペディアその他いろいろなサイトの情報を参考にしています。各種意見は管理人の独断と偏見で記述していますので、ご了承ください。

※本当のトラウマで苦しまれている方々を軽視したり、蔑ろにするような意図は一切ありません。

※本記事の裏チャレンジ:顔文字使わない。