山奥にポツンとトラウマスポット【ポツンとウマスポ】パーマネント・インスタレーションの極致!超絶陶芸空間「虹の泉」は雨上がりが狙い目/東健次

山奥にポツンとトラウマスポット【ポツンとウマスポ】パーマネント・インスタレーションの極致!超絶陶芸空間「虹の泉」は雨上がりが狙い目/東健次

ある陶芸作家が一生を捧げた作品「虹の泉」 料金大人500円

芸術家のインスピレーション───

それは魔のなせる業(わざ)と言わざるを得ない。

その閃きは、ある陶芸家の一生をそれだけに向かわせてしまったのだから。

今回ご紹介するのは、三重県松阪市の山奥にポツンと一軒家…ではなく、トラウマスポット「虹の泉」です。(2018年レポート)

アートこそ好き嫌いの世界なので感じ方は人それぞれですが、「優劣」は確かに存在します。多くの評価基準の中でもその作品にかけた時間量は、分かりやすく、かつ有無を言わせぬ説得力があります。

虹の泉は、陶芸作家東健次さんが1978年から2013年(74歳)にお亡くなりになるまで約35年かけて制作し続けた一つの作品です。「思いついてから死ぬまで」という、一つの作品にかけられる時間の最大値が費やされています。

これぞ

偉業

でしょう。

東健次

東健次(1938ー2013) 引用:虹の泉パンフレットより 

2013年、東健次さんが亡くなられた時点では未完成でしたが、ご家族がその意志を引継ぎ、残されたパーツを焼き上げ、2016年に全て設置を終えたそうです。(夕刊三重新聞社より)

ただ、こちら記事によると「作業できなくなったら完成」という構想でもあったようです。

虹の泉公式ブログ

ちょっとだけ離れた「波瀬駅」という道の駅で虹の泉の入場券を売っています。

開館時間は10時~4時、料金は大人(高校生以上)500円。

注意:冬季1~2月は閉館しているとのこと。行く前に電話確認しておくと良いでしょう。

Tel.0598-47-0828

圧巻!

野球場くらいの広さに、見たことのない空間が広がっています。

一部コンクリート面がありますが、ほとんどがタイルや陶器作品で覆われています。右に眩暈SIRENの京寺さんみたいな来場者の方が見えますので、大きさ感がお分かりいただけるかと思います。

エリアの中心から撮影。2m以上の陶柱が立ち並ぶ、インパクトある風景。手前は雲とのこと、すべて陶器。

東健次さんは、この虹の泉のある三重県松阪市出身。中学の美術の時間に陶器の色彩に興味を持ち、愛知県瀬戸市の県立瀬戸窯業高校(焼き物の専門学校)に入学、焼き物を勉強をされたそうです。

正面の大壁画。無数の陶板でキーワードの「虹」が描かれている。ちなみに横16メートル。

ゴッホの渦巻きのような絵付け。巨大な神様?のヒゲであり、雲であり、世界のような描写になってます。

東健次さんは高校卒業後、陶器工場で働き19歳で日展に入選するも、物足りなさを感じていたとのこと。転機は24歳、スリランカでの旅で見たシーギリヤロックの壁画などにインスピレーションを受け、この虹の泉の構想を思いついたそうです。

シギリヤロック/スリランカ
シギリヤ遺跡 ライオンの手

シギリヤレディと呼ばれる壁画(フレスコ画)は、仏教文化のタッチですが、虹の泉で描かれている絵や造形は、もっとギリシャ彫刻とかミケランジェロ彫刻のような西洋テイストで統一されています。

どちらかというと壁画そのものより、【ジャングル(山奥)の中にポツンと存在する高度な芸術空間】というインスタレーション的視点での発想がコンセプトだったのではないでしょうか? なので、虹の泉が山奥であることは必然なんだと思われます。

(工房はここから20km離れているとのこと)

全体的に西洋彫刻っぽいタッチ。

メインエリア

目に入る部分全てが陶器。

君はこの場所を愛しているね

そっと君に教えよう。作者が今、

何を考えているか、知っているのは

僕たちだけなんだ。彼は「この広場を

雲の上に運び上げる」と云っている

たった今、その作業が始まったんだ。

このことを君の心に留めておい

てほしい。

90 6月11

作品より引用 虹の泉 東健次

この作品は、なんとなく「キリスト教的天上世界」を表現したのかなと予想します。

シギリヤやマチュピチュや他の遺跡でも高さを求める傾向がありますが、支配力顕示よりも「少しでも神的なものに近づくため」という理由が多いのではないでしょうか。畏怖・信仰心からではなく「天国のような争いのない理想世界への憧れ・願い」という根源的な原動力がそこにはあり、それをビジュアル化したのがこの虹の泉────と超勝手に考えます。

なのでここで表現されているものは、雲の上の理想世界。愛と平和と幸福に満ちあふれる世界なのです。たぶん。

写真では分かりにくいですが、多彩な釉薬処理でけっこうカラフルです。

山の中にむき出しで設置されているので、落ち葉や土埃などが堆積しています。雨の日に行ったのですが、そういう堆積物が黒く染みてちょっと汚れてる感があるのですが、逆に時間の経過を感じる深みが増して、個人的に好みです。

この無数のウニョウニョが超かっこいい!

勝手に副題「触手爆発3秒前」

どこから撮っても映える!

映えまくる!

勝手に副題「クラブでバイブス上がりまくりの若者たち」

ちなみに人間が輪切りになっているのは、パーツが焼き窯に入りきらないから。体を分割した状態で焼き、現地で組み立てるのだそうです。

「こちらでワインでもいかがかな?」

右の蛇に注目。

キリスト教で人間が楽園を追われる原因となった悪役の蛇かな? その正体は人間に嫉妬した邪悪な天使:サタンだと言われています。完全なる天上世界に不穏な存在がひっそり隠れています…なんで?

あ!今ピンときましたよ!

やっぱりこの蛇は、イブを騙した旧約聖書の蛇で、このへんの舞台は「エデンの園」。周りに6〜7セットある男女ペア像は、アダムとイブ(またはリリス)ではないでしょうか。

神様は土からアダムとリリスを創りました。

陶器も土から創るよねえええ!

超勝手な妄想ですが、東健次さんは、キリスト教の創世記に沿って理想の天上世界を表現しながら、その実、神と同じように自分だけの世界を土から創ることで【神の模倣:ロールプレイ】を行い、それに幸福を感じていたのではないでしょうか。

そうすると、メインの巨大壁画の顔は父なる神? 右下辺りは天使の軍団(羽根ないけど)?

「重いよイブ」

幼児(天使?)たちの多彩な動き。

どこを切り取ってもアートになる!

こんな抽象彫刻(陶芸)もお手の物! 才能ほとばしる!

勝手に副題「ブラックホール女体化」

ほとばしりまくってる!

勝手に副題「内臓が野菜とか果物になる病」

このブロック好きです。

家族が離れ離れにならないように1本の木になっちゃう、みたいな。なんかそんな昔話あったような…

(思い出しました。昔話ではなく根本敬さんのマンガでした)

もう一枚。

「進撃の巨人の歴史書」

勝利者の丘

勝利者の丘(←正式名)

美しい玉が生えている。

近づいてみると、釉薬による色彩の奔流がスゲェって話ですよ奥さん!

ほら。すごいでしょ!

ミューズの丘

「ミューズの丘」と名付けられたエリアがあります。ギリシャ神話に出てくる文芸を司る女神たちです。キリスト教関係なくなっちゃいましたが、こういう混成アイデアは日本人の得意とすることでしょう。これによって東さんはキリスト教ではないことが予想されます。神話も聖書もあくまでもモチーフなのですね。

大きい像の足元にちっこいのがいます。

「総員!立体機動に移れ!」

それぞれバラバラの表情のモザイクタイルがびっしり。それぞれの造形がいちいち凄い!

飽きないね!

シン・ゴジラのラストシーン。

範馬勇次郎がいた!

刃牙シリーズその2。花山薫のご先祖弥吉くんを背中に寺の鐘を背負って隠し、野武士から守って死に「侠客立ち伝説」となった旅の博徒。

人像樹の森

この「人像樹の森」も圧巻! 人間と樹木が一体となった像が並び、森を形成しています。古くは「ジョジョの奇妙な冒険」第2部柱の男や、最近では「地獄楽」の村人樹化などのモチーフになったとかならないとか…

みんなで木になれば怖くない!

何でしょう、土から生まれた人間は、その生を全うし、天上界の樹木の養分となり下界を見守る……みたいな世界観でしょうか?

天上界の樹木

入り口にあるそびえ立つ系。でかい!

「子供がまだ食べてるでしょうが!!」

よく見ると、樹木融合みたいな表現は色々なエリアに多くあります。これは植物・樹木からの恩恵に対する敬意みたいな思想からかもしれません。陶器は最後に窯で焼く工程で大量の「薪」を使いますからね。

※東健次さんの工房が薪窯だったかどうかは不明です。

あとG-Schmittさんというバンドの樹木礼讃という曲を思い出しましたよ。

まとめ アクセス

「イリスの壁」というエリアがあります。イリスはギリシャ神話で虹を司る女神。

来場者に粘土板を4,000円で販売し、自由に名前やメッセージを書いてもらう。それを焼いてこの壁に設置していくシステム。500円の入場料とこれが東さんの収入源。自治体からの支援等は受けなかったそうですし、これ以外に作品は作らなかったそうです。

いや、実際大変だったと思います。よほどの覚悟と意欲がないと続けられないはずです。何より最初に一歩踏み出したのが凄い。ものすごい構想を思いついても、「もしかしたら一生かかっても完成しないかも」なんて作品制作に踏み出せますでしょうか? 出発は「衝動的」だったとしても、結果死ぬまで続けられたモチベーションが何だったのか、東先生がご存命であったら聞いてみたかったですね。

この作品の特異性をまとめます。

  • 一生かかって創り「作業できなくなったら完成」ルール
  • 全面陶器によるパーマネント・インスタレーション作品
  • 人目に触れにくい山奥への設置
  • カンパが作品の一部になるシステム

発想が画期的で唯一性が高く、先にも後にも同じような事例がないため、比較できる作品がありません。ここでしか見れない・味わえないアートスタイルなのです。たぶん世界でもほぼ見ることはできないでしょう。超ウルトラレアです。

500円安すぎです!

下手な美術展行くヒマあったら、この虹の泉へみなさん行きましょう。

<アクセス>

住所:〒515-1725 三重県松阪市飯高町波瀬156−1

・三重県松阪市駅から車で約1時間10分の山奥です。

・伊勢自動車道の勢和多気ICからなら車で約50分です。

おまけで、ちょっとだけ似たようなケース紹介しておきます。フランスの郵便局員「フェルディナン・シュヴァル(1836−1924)」さんは、ある日拾った石の形に魅了され、33年かけて巨大な石積みの要塞「シュヴァルの理想宮」を完成させました。

「良い子は早く離脱して寝なさい」


※内容と写真は2018年時点のものです。実際に行かれる際には事前に確認ください。道の駅 波瀬駅 0598-47-0828

※アウトサイダーアートとかアール・ブリュットなどにカテゴライズされることもあるようですが、東先生は学校や瀬戸の職場で陶芸技術を学んでいるのでちょっと違うと思います。

※本当のトラウマで苦しまれている方々を軽視したり、蔑ろにするような意図は一切ありません。