【少年漫画】「進撃の巨人」を語りつくす!シーナ編(後編):ジークの特殊能力判明の経緯を推察しながらマーレ軍エルディア人部隊の実態を整理していたら、エレン・クルーガーの意図がわかってきた!
進撃の巨人の感想・考察記事の4回目(ラスト)です。
獣の巨人ジーク・イェーガーの脊髄液の特殊能力は、いつどうやって判明したのかを、マーレ軍エルディア人部隊の運用を整理しながら、一部ネタバレありで深堀りしてみたいと思います。
<過去の記事>
最大の謎!驚異の子、ジーク・イェーガーの特殊能力
獣の巨人ジーク・イェーガーは、マーレ戦士隊の戦士長であり、以下の3点で驚異の子と呼ばれ、優秀な実績を積み上げていました。
- 実の親さえ告発する忠誠心
- 卓越した投擲技術による遠距離攻撃力
- コントローラブル無垢巨人を生成する脊髄液
しかし、この3点目だけは異質すぎます。
ネタを明かすと、ジークの母、ダイナ・フリッツから引きついだ王家の血統が為せる特殊能力なのですが、マーレ軍部がどうやってその能力に気づいてうまく使いこなすに至ったかが、進撃の巨人での個人的最大の謎でした。
まず、「王家の血を引くユミルの民は特別で巨人の力の真価を引き出す」は、子供でも知っている史実だとグリシャが言ってました(88話「進撃の巨人」)。これは、巨人大戦の引き金となったカール・フリッツのことですね。
で、グリシャが楽園送りの現場で「(ダイナとジークが王家の血を引くことを)洗いざらい全部話した」と言っていましたが、この点はフクロウことエレン・クルーガーがもみ消したっぽいです。
そして、93話「闇夜の列車」で、コルトがジークの能力について「王家の血を引いているわけでもないのに」と言ったことで、ジークがマーレ軍部に王家の血統のことを隠していることがわかりました。
マーレ軍部がジークの秘密を分かっていたならば、早くに特殊能力を運用できたことも納得なのですが、分かっていなかったとしたらこの特殊能力に気づくのはちょっと、いやかなりムズいと思われます。マーレ軍部の中にいたフクロウ以外の復権派が、なんらかの目的でそれを示唆した可能性もありますが、ここはマーレ軍部が分かっていなかった前提で、考察(妄想)してみます。
エルディア人戦士隊の運用
テオ・マガト隊長率いるエルディア人部隊は、知性巨人の戦士隊と、通常のエルディア人戦士隊の2つで構成されています。スラバ要塞攻略戦の状況を見ると、このような過酷な前線では、ほぼエルディア人部隊のみで戦っているようです。まず、通常のエルディア人戦士隊の運用を、ジーク前と後で整理します。
ジーク前
基本的には通常歩兵として運用されることが多く、奴隷に近い強制力で、危険な作戦ばかり命じられていたことでしょう。従わない場合は、家族もろとも楽園送りか、特攻隊送りです。
この特攻隊、兵器として無垢巨人化させられる部隊なので、死と同義です。ただし、無垢巨人化すると味方も襲うので、作戦への投入は慎重に行われました。基本的には、敵陣地潜入→巨人化→敵兵捕食という運用ですが、投入数が少ないと駆逐され、多いと後始末にリスクが発生するため、その投入バランスとタイミングが隊長・指揮官のウデの見せどころです。前回の記事でも書きましたが、作戦完了後の後始末は、夜を待ってのうなじ破壊が基本です。稀に夜に動ける奇行種がいたりするので、運用リスクはゼロではありません。
敵国は、これをやられると大打撃を受けるので、潜入者・偽装兵のチェックを徹底しています。また、
マーレに夜襲
という格言があるとうり(ないよ)、巨人特攻のない夜間の侵攻技術・作戦も発達させてきました。
特攻隊最大の課題は巨人化です。うまく敵陣地に潜入できたとして、自身で巨人化薬を打てれば問題ありませんが、いざとなると恐怖で摂取をためらう例も多く、試行錯誤が重ねられてきました。主な巨人化方法は以下の3つです
- ペアで潜入し片方が注射、片方が帰還
- 経口タイプの巨人化薬飲用後に潜入
- 注射後に航空機から投下
確実性では1が勝ります。潜入先で逃亡防止のために手錠などで拘束、恐怖を抑えるために麻酔を注射、作戦時間になったら巨人化薬注射という流れです。ただし、無垢巨人が暴れまわる敵地内で、無事に帰還することはかなり困難でした。
2は、巨人化薬を保護剤でコーティングしたもので、その成分が体内で溶解・流出する時間がかかるため単身での特攻が可能な反面、巨人化タイミングを揃えるのが難しい方法です。潜入後に薬を吐き戻して逃亡するという例があったので、事前に遅効性の毒薬を投与してからの特攻が主流となりました。
3については、狙った場所に投下しにくいので狭い範囲の作戦には向かず、地対空兵器の発達もあり、運用は限定的でした。投下前のエルディア兵は、1と同じく拘束&麻酔が基本です。
ジーク後
巨人化、巨人行動のコントロール、作戦後の後処理リスクが全て解決したため、格段に戦術の幅が広がりました。作中でも描かれているとうり、ジークの命令がトリガーとなりコントローラブルとなるので、味方陣地内で巨人化してから突撃させる、ということも可能になりました。問題点としては、時間が経つとコントロールが効かなくなるので、後処理含めジークが現場にいないといけない点くらいです。
ちなみに、ジークの背髄液入りガス兵器は、マーレ軍が製造したもの。脊髄液入りワインは、パラディ島侵攻・掌握を目的とした反マーレ派義勇兵(の一部)が独自に(マーレ軍には内緒で)生産したものになります。マーレはエルディア人を絶対的な立場で支配しているので、ワインで騙して摂取させる必要がないのです。
巨人戦士隊の運用を考察
戦士候補生から戦士への訓練、選別、継承などは作品の中でけっこう詳しく描かれています。ここでは、作中では描かれていない、ジークの特殊能力がどのようにして見つけられたのかを時系列に沿って考察(妄想)してみたいと思います。
STEP.1 継承の儀
巨人化薬が開発される前は、継承者が先代の死後に背骨(脊髄液)の直接摂取することで継承していました。注射器が発明され、先代が存命のまま脊髄液を摂取することも試してみましたが、巨人は継承されませんでした。先代の死が継承条件の一つなのです。
過去に、13年の突然死を迎えた時に継承予定者が不在で赤子継承になってしまったり、先代の死体(背骨)が奪われるなどの事件があったため、巨人化薬開発後は、継承者が無垢巨人化して先代を生きたまま捕食するという方法が主流となりました。この方法は、先代の死と脊髄液摂取をライムラグなしに実行できるため、継承ミスをほぼゼロにできるのです。
また、無垢巨人化した際に奇行種になってしまい、先代を捕食しないということもありえなくはないため、継承の儀には、その奇行種を行動不能にするための別の知性巨人継承者と、予備の継承候補者の立ち合いがルールとなっています。
STEP.2 巨人練度訓練
各知性巨人の大まかな能力は継承しても引き継がれますが、細かい点で違いは出てくるので、まずその詳細数値を測ります。
- 個体サイズ
- 視力・聴力・握力・スピード
- 巨人化連続時間・回数
この基本数値は、継承後にも変化していくことがあるので定期的(半年に1回程度)に検査します。
マーレ側はこの基本検査をしながら、継承者が能力を隠していないかについて最大限注意しています。例えば、連続巨人化回数が本当は5回なのに、4回で限界のふりをしていないかなどです。表向きは名誉マーレ人という”アメ”で忠誠を獲得していましたが、実際は家族という保険(人質)で縛っています。両親のいないジークは通常継承者として選ばれないのですが、先代の獣巨人トム・クサヴァーの強い推薦によって選ばれました。
STEP.3 能力増設実験
133話「罪人達」で、アニが「女型は特に発現しやすいからいろいろ飲まされた」と言っていました。エレンも地下礼拝堂でヨロイドリンクを飲んでから硬質化ができるようになりました。マーレ軍内には過去の知性巨人の脊髄液(及び継承者の脊髄液)のストックがあり、新規継承者は、それをひと通り摂取して能力の増設を試みます。
女型は発現しやすい、とは言っても他の巨人にも可能性はあるので、ジークやライナーたちも巨人ドリンクはいろいろ飲まされたはずです。
ちなみに女型の「範囲は狭いが無垢巨人を呼び寄せる」能力は、たぶん始祖ドリンクの影響ですね。巨人大戦後に始祖はパラディ島に行ってしまったため、この巨人ドリンクストックは、エルディア帝国時代から受け継がれてきたものであることが推察できます。レイス卿が持ってたヨロイドリンクなども、パラディ島での生産は難しそうですしね。
STEP.4 無垢巨人反応実験
いろいろなものを飲まされた後に行う実験で、無垢の巨人への影響力を測るものです。通常無垢の巨人は、知性巨人にも襲いかかってきます。それに対して制止させる、逆に呼び寄せる、特定の対象を攻撃するよう誘導する、などのコントロールを試みます。なかなか成功する例は少ないのですが、始祖ドリンクの影響でごく稀に発現するケースがあります。(アニの女型)
この時点でジークの獣は、まったくコントロールできないという結果でした。
STEP.5 脊髄液採取~検査
ここがジークの驚異っぷりが判明するステップとなります。
前回の記事でまとめたように、巨人化薬には継承者の脊髄液が必要です。 新規継承者の脊髄液で、巨人化薬が問題なく生成できるかをテストします。問題なければ、巨人化薬生産のため定期的に脊髄液が採取されます。
ここで問題発生です。
ジークの脊髄液から生成した巨人化薬では、巨人化が成功しなかったのです。 投与量を変えてみたり、傷を多めにつけてみたり、巨人化薬を作り直してみたり、別のエルディア人で試してみたり、いろいろやってみましたが成功しません。しかし巨人化できなかったエルディア人は、ジーク以外の脊髄液から生成した巨人化薬だと巨人化に成功しました。
この現象は過去に事例がなく、学会でも議論されましたが、原因がわかりません。果ては、マーレへの忠誠心が足りないからだ、などという根拠のない精神論まで飛び出る始末。原因は不明だがそういう特殊な体質だった、という結論に落ち着きそうでしたが、ジークにとってこの状況は望ましくありません。
ただでさえ、両親兄弟がいない=縛りがないという点で印象は良くなく、加えてその脊髄液も(巨人化薬の原料として)使えないとなれば、軍部からの評価はちょっと下がります。安楽死計画を実現するには、軍の戦略や作戦計画にある程度関与できるくらい、評価を高めておく必要があったのです。
ジークは、もしかしたら自分の王家の血がこの現象の要因かもと考えましたが、そのことは軍へ報告できません。困り果てたジークは、巨人化薬を投与しても巨人化していないエルディア人(万が一のため屋外で拘束中)に対して、何気なしに語りかけます。
「頼むよぉ、巨人化してくれよ…」
次の瞬間、そのエルディア人が強い光とともに巨人化したのです。
そばにいたジークは、その衝撃で少し飛ばされましたが、すぐ自身も巨人化し、その無垢巨人を取り押さえました。無垢巨人は抵抗しており、手を離せば、自分か近くの人間に襲いかかりそうです。まわりのマーレ兵がざわついている中、ジークは考えます。もし自分の呼びかけがきっかけで巨人化したのなら、行動コントロールができるかも、と。
「動くな」
ジークがそう言うと、無垢巨人はピタリと止まりました。そこからいろいろな検証を経て、
- ジークの脊髄液のみ&命令で巨人化すること
- 巨人化後の行動コントロールがほぼ可能なこと
- 夜間でも行動できること
などが判明し、軍からの評価が爆上がりすることとなりました。
エレン・クルーガーのファインプレー
ジークの脊髄液を他の知性巨人継承者(鎧や超大型などの先代)に摂取させてみましたが、誰もこの能力のコピーはできませんでした。当然この血の特殊性が王家由来であることは仮説の一つとして出ましたが、確定はできませんでした。父グリシャも母ダイナも家系情報としてはシロ(ただしダイナの家系は偽装)、そして二人ともすでに楽園送りになっていたため確認のしようがありません。
ここに至るフクロウことエレン・クルーガーの選択(=ダイナを無垢巨人化してダイナ&ジークの血統の秘密をもみ消したこと)は、超ファインプレーと見るべきでしょう。
ジークのこの特殊能力が王家の血によるものと分かったら、マーレは全ての保有する知性巨人を王家子孫(ダイナやジークに作らせる子供)に継承し、圧倒的な軍事力を手に入れてしまいます。パラディ島侵攻による始祖奪還(=地ならしというチート兵器入手)の難易度は、かなり下がっていたことでしょう。
ただし、そうだとすると88話クルーガーの「ジークはマーレにすべてを話すだろう、それが子供のたわ言ではないと奴らが気付くのは時間の問題だがな」発言はちょっと謎です(このセリフ、アニメ版ではカットされてます)。マーレの王家入手阻止のためダイナを巨人化したのであれば、ジークも同じく放置できないはずですが、王家であることがいずれバレるのを分かっていながら、進撃をグリシャに譲渡します。
何千の同胞の指を詰めて楽園送りにするほど対処を徹底していたフクロウが、ジークの存在をさらっと見逃す理由が思いつきません。なのでここは、ジークがマーレに自身の血のことを話さないことが分かっていて、あえてグリシャにそう言った…と解釈します。
なぜジークがバラさないことが分かっていたかは、2つ想像できます。1つ目は、進撃のスキルでジークが王家であることがマーレにバレていない未来が見えたから。2つ目は、ジーク告発事件の経緯を知っていたから、です。
トム・クサヴァーは、心優しきジーク少年の命を救うために両親告発を提案し、ジークはそのとうり行動しました。ジークはクサヴァーに自身の血の秘密を明かしていましたが、クサヴァーはそれを明かすと過酷な運命に巻き込まれ不幸になるため、秘匿するようジークに念押しします。ダイナとジークはエルディア復権のカギであるため、フクロウは当然その動向を注視しており、このあたりの経緯を察知していた可能性は十分にありますが、確実性としては1つ目が上でしょう。
ではなぜクルーガーはグリシャに、ジークが王家の血を引くことがいずれマーレにバレる、と言ったのでしょうか。
これは、グリシャのやる気スイッチを入れるためだと考えます。マーレがジークという王家の器を保有することの驚異を燃料として焚きつけ、先んじて始祖を奪取させるためです。そしてクルーガーは、グリシャに妹の話をし、自由を求めた想いの根源に訴えかけます。
「これはお前が始めた物語だろ」
ここは鬼熱ぃーです。
フクロウは、家族や仲間がいなかったことで誰にもバレずに、活動をまっとうできました。
グリシャに対しても仲間とダイナを巨人化させ、自分と同じ状況をお膳立てしましたが、単独であり続けるだけ(裏からコントロールして誰かを動かすこと)では使命が叶えられなかったことを悔い、壁内で家族を作ること(自身が主役となって物語を紡ぐこと)を提案、エレンが生まれます。
あまり詳しくは語られませんでしたが、 こういう選択に至ったフクロウの過去を妄想するとちょっと泣きそうです。結果、彼の望むエルディア復権という結末にはなりませんでしたが、この「変えられない未来をごく限定的に見ることができる世界」という設定が、この作品をめちゃめちゃ面白くしています。
決定論派である私の大好物でした!
その後のマーレ軍の行動
話が逸れたので時を戻します。
脊髄液検査で判明したこのジークの特殊能力は、マーレ軍の戦術の幅を一気に広げるものでしたが、これは味方にとっても脅威です。戦士としての能力価値・希少性は唯一無二のものでしたが、万が一の可能性を憂いて、ジークの監視と行動制限はより厳しいものとなりました。
しかしマーレ軍の杞憂をよそに、ジークと無垢巨人の隊は破竹の勢いで大きな成果を上げ続けました。
少し後に、ライナーやアニ達が巨人を継承。ジークは戦士長という立場になり、彼らと前線で戦います。彼等が巨人運用に慣れてきたころ、マーレはついにパラディ島侵攻作戦の実行を決定。諸外国の兵器性能向上やパラディ島資源確保が主な理由ではありましたが、作戦決定の後押しをしたのは、ジークの無垢巨人コントロール能力です。それは、知性巨人を4体欠いてもなお、諸外国の侵攻に対抗できる程の驚異っぷりだったからです。
(ただしこの決定は、マーレ軍幹部の中にエルディア復権派がおり、あえて失敗させて戦士隊を弱体化させる目的のためという説もあり)
かくして、マルセル、ライナー、アニ、ベルトルトの4人がパラディ島に派遣され、エレン達の物語がはじまることとなりました。
まとめ
前回+今回の話をまとめます。
マーレ軍の知性巨人継承者には、その脊髄液をユミルの民へ投与する機会があり、そこでジークの無垢巨人制御能力が判明した。
脊髄液をユミルの民に投与する理由は、巨人化薬の原料として継承者の脊髄液も必要だったから。
…という考察を長々と語ったわけでした。
ジークがなぜか自身の特殊能力を知っていて、「私の脊髄液を用いれば制御可能な無垢巨人生成が可能です!」とマーレに報告すれば超スムーズですが、ご都合主義が過ぎます。何かの拍子に、たまたま偶然ジークの脊髄液をエルディア人が飲んじゃった!なんてシチュエーションもちょっと想像できません。まずですね、脊髄液を採取するのがけっこう大変なのです。
このジークの特殊能力がいかに判明したかについて、もっと良い説がありましたら、ぜひコメントに投稿ください。泣いて喜びます。
勝手にマリアージュ
いろいろあることないこと書き綴りましたが、とにかく言いたかったことは「進撃の巨人は面白い!」に尽きます。連載中もたいがい鳥肌モノの面白さでしたが、単行本最終巻で加筆された、たった数ページに解釈がガラっと変えられたりして震えが止まりません。
最後に、この進撃の巨人という世界観にぴったりの曲を貼っておきます。…ていうかこの曲は、いろんな名作にあてはまっちゃうんですよね。
amazarashi 誦読『つじつま合わせに生まれた僕等 (2017)』 Music Video(7:56)
もう一つ、MERZBOW大先生のBarikenというアルバムの1曲目Bariken(8:58)が、まさに地ならしを想起させる、超破壊的ノイズ行進曲の名曲すぎるのでおすすめなのですが、あらゆるルートで購入できないので再販を強く期待しつつ、終わりたいと思います。
おしまい