【フレンチホラー】必然性のあるオーガニックバイオレンスが美しい『屋敷女』は現代フランス社会の歪が産んだトラウマ名作であるがゆえにNWOJHへの期待が高まる!
- 2021.09.05
- トラウマ映画
- R18+, グロ, ゴア, サスペンス, スプラッター, ゾンビ, トラウマ, トラウマ映画, ネタバレ, ノーカット, バイオレンス, バッドエンド, フレンチホラー, ホラー, 恐怖, 暴力, 殺人鬼, 洋画, 海外映画, 血
映画史上最狂最悪──とのことで、屋敷女ノーカット完全版を池袋シネマ・ロサで観てきました。フレンチホラー四天王と言われるだけあって、とても良きウマコンだったので、ネタバレありで感想まとめます。
2000年代前半に突如として現れた異なる監督の4つのフランス発ホラー映画。
●アレクサンドル・アジャ監督『ハイテンション』(2003)
●サヴィエ・ジャン監督『フロンティア』(2007)
●『屋敷女』(2007)←今回紹介するのがコレ
●パスカル・ロジェ監督『マーターズ』(2008)
基本情報女
屋敷女は、フランスのスプラッター・サスペンス映画。まずは基本情報をどぞ。
●2007年公開、フランス映画
●出産直前の女性に危機が迫るスプラッターサスペンス
●監督:ジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ
●原題:À l’intérieur、英題:Inside
●R-18
●2016年に別監督でリメイク公開
●フレンチホラー四天王の一角
あらすじ
クリスマスイブの夜、出産を翌日に控えたサラは、誰かとクリスマスを楽しむでもなく自宅に一人でいた。数カ月前、交通事故で夫を亡くしていたのだ。そこへ見知らぬ女が「電話を貸して欲しい」とやってきた。不審に思ったサラは追い返そうとしたが、女は引き下がらないため警察を呼ぶ。警察が来た時、家のまわりに不審者は見あたらなかったが、サラが眠りについた時、女はすでに家の中に侵入していたのだった!
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
2008年日本での公開当初、あまりにひどい描写で映倫が審査を断り、一部カットと修正(黒いボカシ)を余儀なくされたとのことですが、それのノーカット完全版が満を持して劇場公開となったわけです。
よく映倫通りましたね?
屋敷女ノーカット完全版公式サイト
予告編
感想としては…
大満足です!
序盤は静かに入って、後半一気に盛り上がる、M-1グランプリでしっかり高得点をたたき出せそうな展開。それでいて、間に安全安心状況=静の状況が絶妙なバランスで挿入されていて、あきさせない。予想を裏切る展開もあり、しっかり怖くて、がっつりエグい、何より「痛さの見せ方」が上手い、鮮烈なA級ホラーでした。
良かった点女
以降ネタバレありで良かった点を上げていきますので、気にされる方は離脱ください。
((((;゚Д゚))))ガ
((((;゚Д゚))))ガク
((((;゚Д゚))))ガクト
((((;゚Д゚))))ガクトコワイ…
1.刺しノイズ
サラに気がある会社の上司が心配して家にやってきますが、予想どおりヤられます。ベアトリス・ダル姐さん演じる謎の狂った女に刺された時の音が「ギュワワーン!」という私の大好きな凶悪ノイズ音だったのです。あれ?そんな音の出る 武器 だっけ?と一瞬錯覚しますが、刺す瞬間にのみ乗せる効果音だ!とわかって鳥肌です。もうこれだけでカッコ良すぎてご飯3杯イケます!
2.白い洗面所
謎の女に襲われたサラは、2階の洗面所(トイレもあってけっこう広い)に逃げて立てこもるのですが、ここの洗面台や床、壁が全て白で統一されていて清潔感あふれるコーディネートになっています。そ・れ・ゆ・え・に!血の赤がとても美しく映えてます!映えまくってます!蛍光色の照明に純白タイルは、スプラッター美学の解の一つと言い切って良いでしょう。
3.敵もピンチ
謎の女訪問後、いろんな人がやってきます。通報を受けた警察官、会社の上司、サラのお母さん、パトロール警官3人と別件で捕まっていた若者など。その度に謎の女は、サラのお母さんのふりしてみたり、サラ本人のふりをしてみたりと達者なアドリブを披露します。そのあたりの敵視点でのピンチ場面もハラハラドキドキです。ジョジョ4部の吉良吉影感があって、とても好きです。
4.人の強さ
人はけっこう頑丈で、なかなか死にません。死なしたと思ったら生きていた!…は、世の中全てのコンテンツあるあるです(代表作:男塾)。この人の強さというものを、謎の女はもちろん、謎の女にヤられる皆さんも見せてくれます。別件で捕まっていた若者は、頭にハサミがブッスリ状態でかなり粘っていましたが、このへんもリアルだなぁって思いました(脳幹を損傷しなければ意外と即死しない)。
5.身近な痛み
レザーフェイスにチェーンソー、フレディに鉤爪、貞子にビデオと、強い敵には象徴的な凶器があります。屋敷女にはいろいろな凶器が出てきますが、中でもハサミがシンボリックアイテムとしてそのプレゼンスを発揮しまくっています。刺す切る両方できる利便性も強みですが、何よりどの家庭にもあるという身近さゆえに、見る側はその痛みをイメージしやすいのです。
実際、チェーンソーで切りつけられるのとハサミの刃で指を挟まれるのを想像したら、ハサミの方が痛い感じがします。共感は力です。
気になった点女
いや、こんな素晴らしい映画なので欠点言うなんて超おこがましいのですが、期待の裏返しというか、やればもっと出来る子なはずなのであえて言います。でも、個人的にちょっと気になった…程度のことなので、あまり気にしないでください。全体的にはとてもエッジーで良い仕上がりのスラッシュバイオレントホラーです。(なぜか必死)
1.オープニングクレジットの時のイメージ画像
映画冒頭、オープニングクレジットの際のイメージ映像が、血糊や内臓っぽいグログロしたモノがグチュグチュしていて不快感を煽ってきます。イメージ映像としては美しいのですが、この後起こる惨劇を想像してしまい、心構えてしまうのです。いかにも「いまからエクストリームでゴアなスプラッターがは~じま~るよ~!!」と宣言しているみたいで、ある種ネタバレ感があるので、ここはそんなにグロくなくていいのではと思いました。
2.赤ちゃんCG
ちょいちょいサラのお腹の中の赤ちゃんの状況がCGで描かれます。サラが転んだりすると、CG赤ちゃんも衝撃を受けて「あ痛ッ!」みたいな感じになります。途中で赤ちゃんが覚醒して何か展開に絡んでくるのか?とも思いましたが、特に絡んできませんでした。このCGは赤ちゃんの危機っぷりを具体的に見せていますが、母親の演技で十二分にヒヤヒヤできるので、なくてもいいかなと思いました。
序盤でサラは、口をまたぐ左側の頬をハサミでざっくりいかれるのですが、以降アップになるたびその歯の白き輝きが「えっ?」ってなってしまいます。唇があれだけザックリ切れていて、口の中がノーブラ※1なのは違和感あります。
※1.ノーブラッド=血がないこと。
4.会社の上司が第3部
サラに気があったがゆえに、のこのこヤられにやってくる会社の上司の名前がジャン=ピエールなので、ジョジョ3部のポルナレフがちらついて、少しだけ映画に集中できません。階段でヤられるシーンは、
「階段を上っていたと思ったらいつのまにか降りていたー!!」
と叫びたくなっちゃいます。
5.点で線を突く
サラが2階の洗面所に立てこもっていた時、サラのお母さんが娘の安否を確認しようとやってきました。洗面所のドアを開けた瞬間、サラは謎の女だと思って、細い棒みたいなもの(ブラックエンジェルズ雪藤のスポークみたいなもの)でお母さんの首を刺しちゃいます。これが見事に頸動脈を貫いてママDIEです。これは一瞬で横から線を点で突くという、飾り職人の秀も真っ青な離れ業です。たぶん100回のうち95回くらいは失敗するでしょう。
6.腹囲問題
映画のラスト、例の黒ボカシが入ったシーンですが、赤ちゃんが出た後のお腹はもっと引っ込んでボヨヨンとするはずです。これだったらボカシのままでも良かったかもです。(´·ω·`)ショボヨン
7.邦題問題
屋敷女という邦題の意味を、映画を見ていながらもすごい考えちゃったのですが、けっきょくピンとくる結論に至りませんした。調べてみたら、望月峯太郎先生のストーキングホラー漫画「座敷女」が由来とのこと。ピンとくるわけがない!
8.ゾンビ問題
パトロールにやってきた警官は、奮闘空しくダル姐にヤられてしまいます。その後いろいろあって1階にバトルフィールドが移った際、ヤられたはずの警官がなぜか復活してサラに襲いかかってきました。
ここは予想を裏切る良き展開でもありました。前項でも書いたように、人はなかなか死なないスキル発動+目をやられていてサラをダル姐と勘違いして襲ってきた…という解釈をして乗り切ったのですが、調べたところによると監督が好きで入れたゾンビ設定だったようです。
いや、そんな設定入れなくても十分面白いですから!
サプライズが過ぎます。
リメイク版も見てみた女
この屋敷女は、2016年にスペイン×アメリカでインサイド(INSIDE)としてリメイクされました。こちらも観てみましたが、結論から言うと、とてもきれいに仕上がってはいるのですが屋敷女を観た後だとちょっと物足りない感じです。残酷描写も少し抑えられており、日本のレイティングもR15+となっています。
良かった点
・主人公サラに難聴という追加の枷を設けた点
気になった点
・オープニングで乳児誘拐の件数を出し、そのうち10%が妊娠中に起きたと豪快にネタバレしている
・妊婦の横でタバコを吸いながら初産の不安を煽ってくるイカレ看護師が出てこない
・最後いい奴になる
まとめ女
原題のÀ l’intérieurは、中とか内側という意味(英語ではINSIDE)。お腹の中の赤ちゃん、人の内側に潜む狂気などと捉えることができますが、もう少し考察・調査してみると、2つの解釈・メッセージが見えてきました。
1.社会不安が生み出す恐怖
主人公のサラは、ジャーナリストでカメラマンです。映画冒頭で、妊娠中なのに暴動を撮影しに行ったとか行かないとか言ってました。パトロールに寄った警官に捕まっていた若者も、暴動で捕まってたっぽい気がします。
映画公開の2年前に、わりと大きい暴動騒ぎ(2005年パリ郊外暴動事件)が起きています。フランスでは、これに限らず若者による暴動(郊外と言われる低所得層地域から都市:中~高所得層に向けて)が継続的に起きています。大規模な移民政策に端を発する、貧困・格差、失業、人種差別などの根深い問題が、暴動という形でちょいちょい噴出してるのです。
この暴動が一部暴徒化したりするので、フランスっ子たちは常に不安と恐怖に怯えているわけです。この身近で恒常的な恐怖感こそが、この屋敷女という映画が産まれた土壌ではないかと考えます。
デモや暴動に参加する人が、全て移民系というわけではありませんが、矛先を向けられた側としては、外からの侵略です。サラとおなかの赤ちゃんがフランスそのもので、屋敷女を含むその他キャラクターが理不尽に侵入・侵略してくる外敵(移民、暴徒、諸外国)…という構図が成り立つのではないでしょうか。
そう考えると、あっさりやられる警官たちは治安組織としての頼りなさ=政治や国への不信感であったり、奮闘するサラが最後は負けちゃう展開=光の見えないフランスの行く末暗示だったり、クリスマスも安心して楽しめない社会情勢などなど…まんま自国への不満を血糊に変えて全力でぶちまけている感じで、とてもメッセージ性を感じます。
2.アウトサイド アンガー
日本の映画評論家の小林真理さんが制作したBEYOND BLOODというドキュメンタリーがあり、監督やダル姐さんが出ていて、 NWOFH の理解が超はかどります。この中で、NWOFHは世界では評価されたが、フランス国内ではNO WAVEだという話が印象的でした。フランスでホラー映画は、ちゃんとした映画とは認められておらずアウトサイダーであるとのこと。
日本でもちょっと似た風潮がある気がしますね。そのような外側へ追いやられた側の、自国民及び自国の旧態依然としたシステムに対する不満や怒りを血糊に変えて、全力でぶちまけている感じが、とてもメッセージ性を感じます。
オレ達が作ってるのだって映画(= 内側 )だよ!
と。
屋敷女リメイク版は、これらのような背景(気持ち)が感じられなかったので、何か物足りなかったのでしょう。映画に限らずあらゆるコンテンツは、やっぱりモチーブ(動機)が大事。HWOFHが9.11後に出揃っているのも偶然ではないと、BEYOND BLOODの中では分析しています。
日本も、極端な少子高齢化、10代自殺率過去最悪、コロナ不況などでピースは揃いつつあります。こりゃもう
NWOJH への期待しかないですね!!
あ、言い忘れてました。
屋敷女は、ショッキングなトラウマシーンが超大盛りなので、心臓の弱い方、特に妊娠されている方は見ないでね。マジで。
おしまい女
オマケ
映画の音楽を担当したフランソワ・ウードさんのアルバムが1枚Spotifyにあったので貼っときます。
※屋敷女のサントラではありません。
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