【分析】週刊少年ジャンプの三原則(三大要素)「友情・努力・勝利」っぽくその他のマンガジャンル三原則を大真面目に考えてみた話
友情・努力・勝利とは、かつて週刊少年ジャンプの三原則(三大要素)として掲げられたスローガン。「じゃあ、他の雑誌は何なの?」というのが気になり調べてみましたが、結論から言うと、その他のマンガ雑誌に似たような三原則的なものはほぼありませんでした。
無いなら作ってしまえということで、ネット上にいくつか落ちていた情報をかき集め、独自の解釈も加え、各マンガジャンルの三原則みたいなものをまとめてみました。
友情・努力・勝利とは
詳しくはこちらのWikiに書かれていますが、ジャンプに限らず少年マンガの三大原則として語られることが多いようです。ただ、この友情・努力・勝利は、公式に言われていたものではないとのこと。
また、最近の(人気が出た作品の)傾向として、
友情・個性・勝利
友情・血統・勝利
ということも言えるようです。
個性…キャラクターとしての魅力
血統…主人公の親や先祖が実はすごい人
この三大要素は、特に編集部から作家へ指示していることはないそうですが、人気の作品を見てみるとほぼこれらの要素は入ってますね。
マガジンとかサンデーは?
ググってみましたが、少年ジャンプ以外の雑誌について公式っぽいのは見つかりませんでした。
「サンデーは友情・努力・愛」という書き込みがありました。しかしこれは逆で、1980年代にサンデーで「うる星やつら」「タッチ」などのラブコメが大ヒットしたため、「ジャンプ編集部側が友情・努力・愛に変えようとした」という話からのようです。
各誌について、
サンデー:ラブコメ、明るい、コナン、あだち充&高橋留美子
マガジン:スポーツ、ヤンキー、安定感、一歩
チャンピオン:刃牙、クセが強い、ないとさみしい
…などの特徴はあるものの(個人の見解)、時代に合わせてそれぞれ多彩な作品が発表されており、友情・努力・勝利と異なる明確な三原則を見出すのはちょっと難しいです。
ちなみに週刊少年マガジン9代目編集長森田浩章さんは、こちらのインタビュー記事で、「梶原一騎さんを父、ちばてつやさんを母とする伝統=スポ根がマガジンのブランド力では」とおっしゃってます。
男性向け青年漫画誌は?
購読ターゲットが少し上のヤング○○系のマンガ雑誌について調べてみました。
ヤングジャンプ(集英社)は1979創刊当時の編集方針として、以下の三原則があったようです。
(性を内包した)愛・暴力・権力(からの解放)
最近だと、「キングダム」「ゴールデンカムイ」「東京喰種」などが有名ですね。個人的には、頭脳戦と肉弾戦のハイブリッドギャンブルマンガ「嘘喰い/迫稔雄」が大好きです。
コミックビーム(KADOKAWA)は、Wikiに「愛と勇気と執念のコミック雑誌」とありましたが、3代目編集長岩井好典さんのこちらのインタビュー記事によると、「昔は『業界の端に咲くたんぽぽ』と言っていたが、その後『珍作満載』となった」とあります。
他にも雑誌のキャッチコピー的なものはいくつかありましたが、三原則・三大要素として明言されているものはなかなかありません。独自に考えてみようと思いましたが、幅が広すぎてムリでした…
少女漫画三原則とは
なかよし、りぼん、ちゃおの三本柱を筆頭に、花とゆめ、マーガレット、別冊フレンドなどいろいろ調べてみましたが、公式にはそれらしき三原則はありません。
こちらの教えてGOO!「少女マンガの三代要素って何?」にいろいろな書き込みがあり参考になります。良さそうな意見は、
恋愛・葛藤・成就
または
美形・恋愛・成就
でした。
美形は確かに外せない要素ではありますが、少年マンガでも出てきますし、友情・努力・勝利との対応も考慮すると、恋愛・葛藤・成就がイイ感じですね。
ちなみに成就を妨げる三大要素は、齟齬・誤解・配慮でしょうか。
齟齬:(価値観が食い違い)信じられない!嫌い!
誤解:知らない女の人と歩いてた!
配慮:私より○○ちゃんの方がきっとお似合い!
ホラーマンガ三原則とは
「パリピから先に死ぬ」「すぐ戻る、は戻らないフラグ」などホラー映画あるあるはありますが、三原則的なものは調べた限りありませんでした。
ひとつ、怪物三原則というものがありました。空の境界(小説→アニメ化)という作品に登場する人形師で魔術師の蒼崎橙子さんの名言です。
一つ、怪物は言葉を発してはならない。
一つ、怪物は正体不明でなければならない。
一つ、怪物は不死身でなければ意味が無い。
引用:空の境界 (下)/奈須 きのこ/講談社文庫
確かに。意思疎通できちゃうモンスターなんて、交渉の余地が生まれて怖さ半減ですもんね。
で、私がご提案するホラーマンガ三原則とは、
未知・嫌悪・絶望
になります。
未知は、理解の及ばないモノとして3つの意味があります。1つめは呪い、心霊、怪物など架空のものも含めた未だ科学で解明されていない存在や対象。2つめは、人の思考です。殺人鬼や狂人はもとより、とても優しそうな隣人であっても本音では何を考えているかわからず、何をしてくるかわからないというのは怖いものです。3つめは、シンプルに隠されたものの向こう側です。バラエティでよくある箱の中身は何でしょうゲームや、シーツで覆われた死体、顔に包帯、犬神 佐清 さんのマスク、などなど「隠されている状況」は簡易的な未知なのです。
嫌悪は、人の生物として備わっている根源的な嫌悪感を刺激するモノや描写です。例としては、虫、蜘蛛、ヘビなど害をなす生き物、悪寒や嘔吐、ただれや発疹など病を連想させる症状、苦痛を伴う内外傷と流血あたりが定番ですが、最終的にはすべて最大の嫌悪=死につながります。
絶望は、少年漫画でいうところの勝利、少女漫画でいうところの成就、に相当するホラーのゴールとなる状況・感情です。恐怖の対象から逃げ惑うのが定番の絶望表現でしたが、最近は勇敢に立ち向かった上で通用しなかった絶望が流行ですね。
はじめにぱっと思い浮かんだ三原則は恐怖・死・絶望でしたが、恐怖は少年漫画三原則に「少年」と入れるようでピンと来ず、死も死=ホラーかと言われればそうでもなく、いろいろ考えた結果こうなりました。
ギャグマンガ三原則とは
それらしいルール的なものはありませんでした。ギャグマンガも多様化しているためなかなか定義しづらいですが、考察の結果以下をギャグマンガ三原則としてご提案させていただきます。
滑稽・不条理・フチ取り
滑稽とは、「おもしろおかしいこと、ばかばかしいこと」なので、そもそもこの一原則で成り立つのではという意見もあります。ここでは、アリストテレスの提唱する「笑いの優位性」に則った笑われる側の滑稽さを意味しています。読み手側の持つ一般常識やルールと照らし合わせて、「知らない」「至らない(できない)」「うまくいかない」キャラクターを軽蔑または見下す笑いです。最近のお笑いで言うと、錦鯉さん、モグライダーさんみたいな感じですね。
不条理は、ナンセンスとも言い換えることができます。滑稽として笑うための基準・ルールを逸脱した常識外、無意味、斜め上の行動や状況です。不条理ギャグとしては、吉田戦車先生の「伝染るんです。」などが有名。最近のお笑いで言うとDr.ハインリッヒさん、ランジャタイさんみたいな感じですね。
フチ取りとは、ツッコミのこと。千原ジュニアさんのラジオでの発言になります。
ツッコミとは笑いをフチ取りすることによって、より引き立たせること
ニッポン放送「千原ジュニアのRPM GO!GO!」
この発言をもとに、ツッコミを21種類のパターンに分解・定義したという東京芸大院生の研究を紹介したこちらの記事がちょっと面白いです。
ツッコミとは、何をどうフチ取るかによって笑いのポイントが明確になる=作者のセンスと読者の共感の距離を一気に縮める技法なのです。決して打率は高くない不条理を、美しいフチ取りで見事に安定化させたうすた京介先生の「セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん」「ピューと吹く!ジャガー」などが良き例でしょう。
フチ取りを間違えることで新たな滑稽を生む、なんて高度な発展形も最近では見られます。
胸糞マンガ三原則とは
胸糞マンガ「ブラッドハーレーの馬車」紹介記事で、あらためて胸糞マンガの三原則を考察したのが、今回の記事を書くきっかけになりました。上記の記事でもまとめた胸糞マンガの三原則とは、
利己・暴力・搾取
となります。
利己とは、他人を無視して自分の利益を優先すること。まあ、自分勝手ということですね。これの極北が闇金ウシジマくんに登場する肉蝮くん。「大丈夫、俺は全然熱くない」は名言です。
暴力はやはり外せませんが、フィジカルなものだけではなく心理的なものや言葉の暴力も含みます。あと、これは口酸っぱく言ってますが、単純に殴る蹴る行為はただの乱暴であり、暴力ではありません。暴力には必ず「理不尽さ」を含めてください。
搾取とは、強者が弱者から搾り取ることです。わかりやすいのはお金や労働力ですが、自由・尊厳・命なども搾取対象です。一気にではなく、じわじわと何度もがポイントになります。
ちなみに、一般誌の中で過去イチ胸が糞かったのは、闇金ウシジマくんの26~28巻「洗脳くん」シリーズですね。
(まとまっていない)まとめ
紙の漫画雑誌および単行本の発行部数や売上は右肩下がりですが、電子書籍を合わせると2020年に過去最高売上を記録したというデータがあります。過去最高にマンガを嗜んでいる日本人の作品を知る接点および読み方が、もうすでに従来の漫画雑誌とは別のモノ=デジタルに変わっているということは明らかですね。
未だにたいていのマンガ作品は、ある程度のターゲットや編集方針を備えた出版社&掲載誌に属していますが、近い将来この形態はなくなってしまうと考えます。ただしそのことで発表の機会が減るわけでなく、逆にデジタルの強みを活かして拡がるはずです。
日本で掲載誌というカテゴライズが消えても、アメリカやフランスのように作品単体で発表・流通するような世界にはならないと考えます。もっと多様性が進むであろう日本のマンガ界の未来には、自分の好きな三原則的なものを設定しておくと自分好みの作品がラインナップされた自分だけのカスタマイズ漫画雑誌が読める、なんてことが容易く実現しそうで楽しみです。
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他にも鬱漫画三原則とか、エロマンガ三原則とか、TL/BLマンガ三原則とか、麻雀マンガ三原則とか、4コママンガ三原則とか、グルメマンガ三原則とか、異世界マンガ三原則とかもまとめてみたかったですが、きりがないのでまた次回にします。
最後に、週刊少年ジャンプで連載されていた北斗の拳に登場する聖帝サウザー様の名言、帝王三原則を締めの言葉とさせていただきます。
退かぬ!
媚びぬ!
顧みぬ!