【殺戮コメディー】粗くてゆるいが記憶に残る、日本で一番共感される殺し屋爆誕!「最強殺し屋伝説国岡[完全版]」は、マジ伝説になりそうな気配
阪元裕吾監督の「最強殺し屋伝説国岡 完全版」、略して最国…大好きな殺し屋映画が、また一つ令和に爆誕したのでご紹介します。
この作品プラス「ある用務員」「ベイビーわるきゅーれ」「黄龍の村」を一挙に上映するという、阿鼻叫喚!阪元裕吾監督祭り という攻め企画を躊躇なく敢行した、池袋シネマ・ロサ様で拝見させていただきました。
※あまり大きいネタバレはしないよう善処しながら紹介します。
基本情報
基本情報です。
●監督:阪元裕吾
●主演:伊能昌幸
●2019年に制作したものに一部シーンを加え[完全版]として2021公開
●主に京都が舞台の殺し屋モキュメンタリー
モキュメンタリーとは、フィクションをドキュメンタリー映像のように見せる手法です。
監督が次回作「ベイビーわるきゅーれ」制作のために、殺し屋に密着するという設定。そこで関西殺し屋協会(このネーミングもベタで大好き!)から紹介された取材対象が今回の主役、国岡くんです。
予告編を見てみましょう。
あらすじというあらすじはない感じです。
ひたすら国岡くんを追いかけ、その日常に密着します。国岡くんの殺し屋スキルは高いのですが、完全無欠ではありません。ミスがあったり、いろいろトラブルにまきこまれたりします。荒唐無稽な設定ながら、ひょっとしたら…と思わせるリアリティ*1がちょこちょこあり、引き込まれます。
*1:弾丸配達屋さんと居酒屋で取引するシーン。あえて人目につく場所での取引はアリだと思いました。武器屋さんにとっての、買い手がごねる・金払わない・暴挙に出るリスクを解消できますからね。
■公式サイト
殺し屋の日常というと暗い世界を想像しがちですが、お笑い要素がちょいちょい…いや、けっこうあります。かと思えばバチバチな銃撃戦、熱い肉弾戦もあり、捉えどころのないカオス展開に血みどろの死体群が華を添えまくります。それでいて、観終わった後には不思議な爽快感があったりします。
阪元監督の他のいくつかの作品にも共通していますが、「○○映画」という特定ジャンルにはまらない、ミクスチャームービーというかカオスムービーというかノンジャンルムービーというか、何映画を見ているかわからない不安さを味わうムービーという独自ジャンルが、だいぶ熟成されて気持ちよくなってきはじめた一本だと感じました。
これから先が楽しみすぎて、ストゼロが進みます。
この作品は、10人中12人ゲロ吐きそうになるくらい気分悪い映画ばっかりの阪元作品の中で、比較的さわやかに楽しめる、最強殺戮コメディー混沌アクション青春ムービー…超おすすめDEATH。
3つの見どころ
あまり詳しく書きすぎないよう、見どころポイント上げていきます。
1.バンバン人殺すけどどこか憎めない国岡くんの自然さ
これに尽きます。
常に冷静で淡々と仕事をこなす国岡くんですが、酔ってグチをこぼすなど(←ここが完全版の追加シーン)弱い面を見せたりもします。殺人に躊躇がない不気味さはありますが、戦闘狂とかではなく、撮影クルーに気を使ってくれたりするイイ奴です。
そんな設定の上で、着ていく服悩んだり、普通に彼女をつくろうとしているシーンなど、イマドキの若者感がとても自然で、演じてる感が少なく、ドキュメンタリー感のリアリティ感にとても貢献しているみが深かったです。
いやぁ、あれだけ人殺しておいて、嫌悪感を感じさせないキャラクターってちょっとないです。
2.必見のアクション!実写版煉獄!
アクションが無駄に気合入りまくっています。
ラストの肉弾戦は、見てるこっちが痛くなってくるくらい打撃が深く、あの手数とスピードは必見です。そう、まるで実写版煉獄!! この煉獄(YouTube_喧嘩稼業「煉獄×武田梨奈」)より12倍くらい煉獄でした。
※煉獄:木多康昭先生の格闘漫画「喧嘩稼業」に登場する技。ある一定のパターンで繰り返される、逃げることも倒れることもできない高速連撃。
3.ツッコミ我慢力鍛錬ムービー
同じ京都生まれの劇メーション映画、バイオレンス・ボイジャーと似た空気感がありました。いろいろツッコミどころが満載で、「うおおおい!○○○○かよっ!」って何度も叫びたくなっちゃうのを抑えるのが大変です。
出るとこ出るのかよっ!
目ぇあんのかい!
免許所のコピーって!
自転車そこに止めんなっ!
映画にいらすとやって!
電話じゃなくてLINEで、わかるーー!
…とキリがなく楽しめる作品です。詳しくは映画見て下さい。
ここでも見れる国岡さん
この作品以外でもいくつか国岡くんの雄姿を拝見できます。
ファッションブランドとのコラボムービーですが、販促目的としては攻めすぎです。殺丸くんとヒットガールちゃんとの見事なチームワークで、みるみる死体の山が築かれてくのは爽快です。残念ながら2話には登場しません。
スロータージャップ
阪元監督の2017年の作品。国岡くんは、大陸系ヤンキーに銃を売りに来た武器商人として登場。映画の中盤、銃撃戦に参加し、殺丸くんとガチバトルを繰り広げます。
「母さん、やっぱ素人はダメだわ…」
引用:スロータージャップ/阪元裕吾
銃を売る時タブレットで見積もり見せてたり、「学割コミコミでこの金額なんで」なんてセリフがフフッってなっちゃいます。
…っていうか殺丸くんもけっこう出てますね(笑)
U-NEXTで、阪元監督初期作品が視聴できます。「べー。」「ぱん」「スロータージャップ」「修羅ランド」「ハングマンズ・ノット」「ファミリー☆ウォーズ」「ある用務員」(2021年11月現在)
ベイビーわるきゅーれ、国岡くんも配信されてます!(2022年4月現在)
まとめ
(そういう映画ではありませんが)印象に残ったシーンが2つあったので、ちょっとだけまじめに考察してみます。
1つ目は、国岡くんが「これから2カ月くらいずっと超忙しくなる」となっていた状況。
ここも笑うところなんですが、まじめに捉えたら、殺し屋が多忙な社会なんて、もう末期です。以前こちらの記事で、暗殺事業の成立性を分析してみましたが、やはり日本では需要が厳しすぎます。
2つ目は、国岡くんの「他の仕事に就けなかったので殺し屋をやるしかなかった」的な発言。
正規に就けなかった全非正規雇用民の訴えとリンクするような発言ですが、あれだけ冷静で対応力もある国岡くんだったら、ぜんぜんちゃんとした職に就けてやっていけそうな気がします。能力あるのに、適した仕事ができないとしたら、それもまた末期的社会です。
この2点から、貧困国のギャング化した若者が低単価で殺しを請け負っているという話(確かクレイジージャーニーの丸山ゴンザレスさん回)を思い出しました。
今の日本の政治が若者の方を向いていないのは明白ですが、それによる暗い未来(仕事がなく、人が憎しみあい、無法が蔓延する社会)を示唆している映画だとしたら、ちょっと笑っている場合じゃないです。若い監督が上の世代へつきつける、「いいかげんな国(社会)づくりしてるんだったら(岐阜のおじいちゃんみたいに)躊躇なくヤっちゃうよ(殺)」という覚悟の脅迫状かもしれません。
大いに笑った後は、見ないようにしていたモノに、ほんのちょっぴり目を向けてみましょう。
なんにせよ、今まで味わったことない映画体験であることは保証しますので、列車が触手化して襲ってくる映画を何回も見るヒマがあったら、1回この国岡くんを見てみませんか?
おしまい
※グロい肉体損壊はほぼなかったと思いますが、20人以上は死んでいます。
※ハンドカメラによる手ブレで画面酔いする可能性があります。
合わせて見てみたい
メランコリック
田中征爾監督、2018年公開のサスペンス・コメディー(?)映画。アクションが主題ではない殺し屋モノという部分で最国と共通点があります。さえない東大卒ニートがバイトしている銭湯は、実は殺し場兼死体処理場だったという話、おススメです。
最強伝説 黒沢
天、アカギ、カイジの福本伸行先生のマンガ、ビックコミックオリジナルで連載されていました。タイトルが最国と似ているというだけで、殺し屋モノではありません。建設現場で働く40代未婚ブサメンおじさんが、突如「人望が欲しい」と思い立ち、何者かになりかける物語。
斬新な切り口とゴールの見えなさ加減は、最国と似ているかもしれません。他では読めないような唯一性の高いマンガを探している方にはおススメです。黒沢シリーズは全11巻で完結し、新黒沢シリーズが全21巻と続きます。