【小説】陰キャとぼっちに刺さりまくり!毒電波うずまく青春陰ノベル「信仰宗教オモイデ教/大槻ケンヂ」は、ロックで鬱エモい現代版すっぱい葡萄でやるせがなさすぎ!

【小説】陰キャとぼっちに刺さりまくり!毒電波うずまく青春陰ノベル「信仰宗教オモイデ教/大槻ケンヂ」は、ロックで鬱エモい現代版すっぱい葡萄でやるせがなさすぎ!

はじめて小説を紹介します。

まもなく発表から30年経つ、大槻ケンヂ先生初の小説作品「信仰宗教オモイデ教」です。エログロ的なトラウマ度はそんなに高くはなく、マイルドにお楽しみいただけますが、こじらせボッチな私にとって、超刺さりまくった忘れられない一冊です。

なるべくネタバレは無いようにします。

あと、作中に登場する音楽についてまとめています。

 

基本情報

基本情報です。

●著者:大槻ケンジ(処女作)

●月刊カドカワに掲載、1992年単行本発売

●1993年文庫本発売

●人を発狂させるメグマ祈呪術という超常の力を使って世直しをする信仰宗教オモイデ教を舞台に、主人公ジローが自分と世界に向き合う物語

●別作者による外伝シリーズもあり

 

あらすじ(導入)

ジローのとなりの席のなつみさんは、精神がちょっとおかしくなって1カ月前に高校を退学してしまった。その後新興宗教に入信した彼女は、偶然ジローと再会し入信を勧めてきたのだが、その内容はとても胡散臭いものであった。

新興宗教オモイデ教は、大宇宙の意志ホン・ラガトエーが識別する悪しきもの(悪しき人間)を、メグマ波という目に見えない電波で攻撃し、狂わせ消しているのだという。彼女は、その能力「誘流メグマ祈呪術」の才能があり、オモイデ教の中でもエリートとのこと。

二人は賭けをする。ジローが指定する人間を狂わせることができたらオモイデ教に入る、と。

それから一週間後、ジローが指定した数学の前川先生は、突然「最近、電波で俺を誹謗中傷する者がいる!名乗り出ろぉ!」と叫び出し、まるで鯰のようなどろりとした目になり、狂ってしまった───。

 

………

 

筋肉少女帯や特撮でお馴染み大槻ケンヂさんの処女小説作品。少年漫画的なサイキックバトルシーンもあったりしますが、一言で言うなら、

やるせないお話

 

とても読みやすく、まるで漫画を読んでいるような感覚で一気に読み進めることができる、ハード鬱なジェットコースター青春陰ノベル

宗教(信仰)がテーマの一つとなっていますが、説教臭さは1nmもありません。

 

思春期に発生するしこりや膿のようなものを絶妙に刺激してくれる、筋肉少女帯などの音楽活動の大槻ケンヂワールドと、とても近いものをこの小説でも味わうことができます。

トラウマになるほどのエグいシーンは、ほんの少ししかありませんので、青少年の方でもご安心してお読みいただけます。

たぶんね。

 

………

 

新興宗教オモイデ教の単行本と文庫本

ちなみに、著者表記が、大槻ケンとなっていますが、どこかのタイミングで大槻ケンとなったようです。電子書籍では、ケンヂとなっています。

もう一つちなみに、文庫本では、表紙が丸尾末廣先生になり、永井豪先生の解説(マンガで)が追加されています。

もう二つちなみに、宗教団体のテロ行為としてオウム真理教の地下鉄サリン事件が有名ですが、この単行本発売後の3年後に起きています。

 

登場人物

主な登場人物を紹介します。

※画像はイメージです。

 

八尾二郎イメージ

八尾二郎(ジロー)

主人公の内向的な男子高校生。なぜか周りの人間をとてもつまらないものと認識し、漠然とした憎しみを抱いている。自分から友達をつくろうとはせず、休み時間になったら水道でずっと手を洗い、心を落ち着かせる。となりの席のなつみちゃんきっかけでオモイデ教に巻き込まれ、隠れたメグマの才能が明らかになる。

 

なつみイメージ

なつみ

ジローの同級生。突如精神がおかしくなり高校を中退、オモイデ教に入信する。メグマの才能があり、オモイデ教の中では「メグマ使いのエリート」と呼ばれる。教祖のトー・コンエを絶対的に崇拝している。

 

中間イメージ

中間有村

関西弁のオモイデ教メグマ術師、20代後半。過去にハードコアなノイズバンド活動をしており、どろどろぐちゃぐちゃした阿鼻叫喚な修羅場が大好き。一緒に世界をぶっ壊してくれる相方を探しており、ジローにその役割を期待し、メグマの使い方を教える。

 

ゾンイメージ

ゾン

昔中間が組んでいたノイズバンド「自分BOX」のメンバー。普段から何を考えているかわからない行動を取り失語症だったため、ゾンビのゾンと呼ばれていた。パフォーマンスの過激さに定評があったが、客席に火炎瓶を投げようとして精神病院に入れられた。ひさしぶりに中間の前に現れた彼は、オモイデ教のライバル義和尊神教のメグマ術師となっていた。

 

トー・コンエイメージ

トー・コンエ

オモイデ教の教祖。35歳までは売れないオペラ歌手だったが、ある日上野の不忍池で大宇宙の意志「ホン・ラガトエー」と繋がり覚醒、そのコンタクティーとなる。この世界は善きものと悪しきものに二分されるという教義のもと、悪しきものをメグマ波の力で追放する活動を行っている。本人もメグマ使い。

 

拝み屋ジョーイメージ

拝み屋ジョー

もともと霊能力者であり、恐るべきメグマ術師でもある義和尊神教の教祖。民自党元総裁で学者でもある「撮列重蔵」が発見したメグマ波のコントロールを成功させた人物。売春島でゾンの潜在能力を見抜き、彼を義和尊神教で引き取り、メグマ術師に育てた。

 

読みどころ

 

誘流メグマバトル

突然精神がおかしくなってしまう現象は、昔から乱心とかキツネ憑きなどと言われ、よくある話でした。近代では、電波系という名で、支離滅裂なことを言う人、頭のおかしい人を差すようになりました。

この謎電波にメグマ波という名を与え、人為的に操り、相手を狂わせられるというコンセプトがちょっと面白いです。

相手が精神的強者の場合、心の傷(トラウマ)をえぐり出して攻撃するとメグマが通るとか、酷なバトルルールが大槻先生らしくて大好きポイント5倍デー!

強いメグマ術師は、より多くのメグマ波を呼ぶ(集める)ことができる者。その強さの資質は何によるものなのか、そこが一つの読みどころでもあります。

 

裏大槻ケンヂの世界

筋少や特撮の歌詞には出てこないような、陰惨なシーンや、狂気で淫猥な表現が一部展開されます。特にちょっと精神がおかしい人の行動や心理表現に独特のものがあり、例えばこんな表現。

ゾンくんが、ほっぺた突き刺せるくらい鋭くけずった鉛筆で、なにやらガリガリとノートに絵を描いている。覗き込んでみたら、無数に咲き乱れる蓮の花から両目のない坊さんがにじり出ようとしている絵だった───。

また、そういうイカれっぷりを良しとする中間さんの価値観(ノイズバンドをやるような人の心理)は、80年代エクストリームパンクの現場を見てきた大槻先生ならではの視点で、他ではちょっとお目にかかれないかもしれません。

 

火花を散らす自己都合

普通の物語は、たいてい努力や成長する人、他者を思いやる人や愛を持つ人が登場し心を動かされるのですが、この作品には出てきません。

見事に自己都合で生きる人、またはシュタイセーのない人しか出てこず、やるせなさ感をブーストしてくれます。

唯一、主人公のジローくんだけ良識がありそうな感じです。しかし、まわりの世界と一万歩くらい距離をとる達観した生き方と比較して、精神的に抱えている爆弾の大きさとイビツさから、その特異性がうかがえます。

そうなった要因も、実は自己都合ではないかと個人的に分析しています。詳細は最後にまとめます。

 

作中に登場する音楽を解説

この作品の中には、ちょいちょい音楽の話・キーワードが出てきますので、いくつか紹介しておきます。実際の音を知っていただくと、いろいろイメージが捗るかもしれません。

 

ポセイドンの目覚め

中間さんがジローくんを飲みに誘ったバーの店名が「ポセイドンの目覚め」。1970年発表のキング・クリムゾンのセカンドアルバムのタイトル、および収録されている曲名が「ポセイドンのめざめ(In The Wake Of Poseidon)」。ちなみに「wake=目覚め・覚醒」は翻訳間違いで、「航跡」とのこと。ちなみにこのアルバムだとやっぱりPictures Of A Cityが好きすぎ。

King Crimson – In The Wake Of Poseidon (OFFICIAL)

 

ニール・ヤング

そのバーで流れていたBGMが、ニール・ヤング。中間さんは「今どきwww」って感じで笑ってました。特に曲名などは記載ありませんでしたが、適当に1曲貼っておきます。1945年生まれのカナダのミュージシャン、ニール・ヤングさん…有名な人っぽいですが、この方よく知りません。

 

LAウーマン/ドアーズ

そのバーのお品書きがLPレコードに書かれていた…というくだりのそのレコードがドアーズ(The Doors)のL.A.ウーマン(L.A.Woman)というアルバムでした。1971年発表のアルバムですが…え~とドアーズさんのこともよく知りません。

L.A. Woman

 

キング・クリムゾン

中間さんが、ジローくんに聴いている音楽を質問し、その答えが「クリムゾンとか」。

ロバフリことロバート・フリップさんが主宰の、イギリスのプログレバンド、キング・クリムゾン(King Crimson)のことですね。代表曲の21st Century Schizoid Manを貼っておきます。発表から50年以上経ってもまだカッコイイとか、もう怪奇です。

ちなみに、ジョジョ5部のラスボス、ディアボロのスタンド「キングクリムゾン」はこのバンド名からきており、その能力「エピタフ」も、キング・クリムゾンの曲名であることは、ジョジョ界では常識のジョです。

King Crimson – 21st Century Schizoid Man (Including "Mirrors")

 

自分BOX

自分BOXとは、中間さんとゾンくんが組んでいたハードコア・ノイズバンドのバンド名、実在はしません。

中間さんは、ガラス板ひっかきノイズレイプ奏法を駆使するギタリスト(あとがきによると、ギタリスト古舘徹夫さんのプレイを拝借したとのこと)。ゾンくんは、奇声を発しながらのたうちまわる系のボーカル兼パフォーマーで、全裸・放尿・ケンカ・流血など過激さがウリ。

あとがきによると、ゾンくんは80年代のヤバいパンクロッカー達の集合体とのこと。

  • スターリンの遠藤ミチロウ
  • あぶらだこのヒロモト
  • 人民オリンピックショーの町田町蔵
  • ガガーリンの田口トモロヲ
  • じゃがたらの江戸アケミ
  • ハナタラシの山塚アイ
  • ギズムの横山サケビ

なんて名前の記載があります。

中間さんとゾンくん以外の自分BOXメンバーの記載がないので、詳細はわかりませんが、雰囲気として近いのはたぶんこんな感じなのでしょう。↓

ハナタラシは、こちらのトラウマ音楽の記事でも紹介した山塚アイさん率いる伝説のパンクバンド。

ユンボでライブハウスの壁を破壊しながらの入場とか、チェーンソーで猫の死骸や自分の足を切っちゃうとか、サイキックTVの前座で呼ばれたのにダイナマイト持ち込んで怒られたとか、ちょっと今だとありえなさすぎです。

極めつきは、客席に火炎瓶を投げ込もうとして未遂になったこと。このことは、小説のなかでそのまま描かれていましたね(ゾンくんが本気で火炎瓶投げようとして中間さんが止めた)。

 

 

Ege Bamyasi/CAN

中間さんが、神猟塚聖陽心霊治療塾との対決をジローくんに見学させようと連れ出した車の中で流していたアルバム。中間さんが「カンのエグバミヤシや。」と言ってたやつです。

CANは1968年結成のドイツのバンドで、このアルバムは1972年リリース。プログレとはちょっと違う感じですが実験的で前衛的であり(当時)、クラウトロックと呼ばれています。

 

パノラマ島へ帰る/筋肉少女帯

ラストの方で、オモイデ教の教祖トー・コンエ様が、そのバリトンの唄声(ジローくん曰く正直上手くはない)で披露してくれた歌です。1990年発表の筋肉少女帯4枚目のアルバム「サーカス団パノラマ島へ帰る」に収録されています。

 

僕の宗教へようこそ/筋肉少女帯

それでは最後にもう一つ、筋肉少女帯5枚目のアルバム「月光蟲」(1990年リリース)より、「僕の宗教へようこそ」です。

オモイデ教とは直接関係ない曲ですが、宗教、ペテン師、踊らされて痛い目を見る人々、などという世界観が、その根底に流れる大槻先生のメッセージとしてとても近いものがあります。

まとめ ジローくんの闇の源泉とは

 

手を洗うイメージ

 

主人公のジローくんは、パッとせず、内向的で友達がいません。世界をメチャクチャにする爆弾を作り、クラスのみんなが止めろと懇願するのを無視して秒読みをする妄想でアツくなる、闇深き青少年です。

そうなってしまった過去の出来事などは語られていません。もしかしたら、性格に影響しそうなトラウマ事件や抑圧はなかったのかもしれません。

特にそういう原因がなくとも、偉いとされる人のパレードにアホ面さげて小旗を振り、たった数秒のために人だかりをつくる人々が憎くてしかたがない人格になってしまう可能性があるということは、とても面白い視点です。

 

そして彼は、そんな世界の一員である自分自身も憎んでいます。

ジローくんは、休み時間になったら水道に行ってずっと手を洗い、なるべく人と関わりを持たないように過ごしています。思春期にその孤独のつらさはいかほどかと推察できます。

まわりの人々(世界)など、とるに足らないつまらない価値のもの、と思い込まないと生きてられない程に。

 

本当は他人と関わりたいくせに傷つくことを恐れて強力な防壁を築いたら、強力すぎて自身でも取り払えなくなったマヌケさに自己嫌悪───というのが、この漠然とした憎しみの正体ではないかと推測し、ボッチストにとっては、わかりみと共感と共鳴しかなく、SLAYERのReign in Bloodくらいの勢いで感情移入をヨギナクサレるのです。

………

 

休み時間になったら水道でずっと手を洗う、は大槻先生自身のエピソードです。

このフレーズが出てから、全編が先生自身の心情であるように見えてきました。中間さんのセリフ 「友達でも恋人でも同じスピードで歩いていかないと続かない」 も、たぶん何か実際にそういう体験をされたのだろうと思えるほど、重みを感じます。

やはりフィクションであっても、作者の想いが見える作品は面白いですね。

 

思春期でボッチで陰キャの方にぜひともおススメしたい一冊ですが、そうでなくても若いうちにこれを読むと、きっと将来変な宗教にハマったりすることはなくなると思いますのでおススメです。

 

おしまい