【ライブレポート】風呂屋の深奥でハードコアを叫ぶ!ノイズ✖グラインドのワールド地下フェス”MACHINE PARTS FEST2023”に潜入してみたよ!2023.6.10-11@落合soup

【ライブレポート】風呂屋の深奥でハードコアを叫ぶ!ノイズ✖グラインドのワールド地下フェス”MACHINE PARTS FEST2023”に潜入してみたよ!2023.6.10-11@落合soup

面白そうな地下フェスがあったので行ってきました。2日で総勢16組のアーティストが出演しましたが、ジャンルがノイズとグラインドというコアな企画。どれも良かったので、レポート交えながら自身の勉強のために出演者情報を整理していきます。

 

企画と会場

MACHINE PARTS FEST(機械部品フェス)という製造業の方が集まってきそうな企画名ですが、海外アーティストも含む音楽フェスです。調べてみましたが昨年以前の開催はなさそう。ノイズとグラインドの祭典ですが、ノイズ系が多め。これだけのノイズアーティストが一堂に会する期会はそうそうない貴重なイベントだったと思います。

会場は東京都新宿区にある落合soup

これがまたディープな会場で、大正12年創業「松の湯」という銭湯の地下。知らないと絶対迷います。ライブ後にすぐ汗を流せるという良き会場です。(ただし飲酒後のお風呂は体に良くないのでご注意)

落合soup入口
知らないと絶対見つけられない落合soupへの入り口

 

最初に入る際、なかなかの覚悟が必要です。

地下のコインランドリースペースの奥に扉があり、「ここ入っちゃっていいんだろうか?」という不安を押しのけそこからさらに地下へ。寄生獣の食堂感のある階段を降りきり、もうひとつ深奥の扉を開けるとようやく会場です。

落合soupへの入り口2
地下のコインランドリーの奥にさらなる地下への扉が…

 

地下感満載のシンプルな地下スペースですが、演者と客側を隔てるものがなく演奏を間近で見れるのはGOODです。しかし普通のライブハウスとは逆で演者側が一段低くなっており、混んでる客側の後方にいると演奏がまったく見えなくなるのが弱点ですね。

 

1日目 2023.6.10(土)

1日目はすべてノイズ系でグラインドはありませんでした。人はけっこう入っていて、前回レポートした下北沢のノイズライブもそうでしたが外国の方が多かったですね。

それでは出演順でアーティスト情報を整理して行きます。

Our Wrongs

トップバッターはアメリカ人のノイズデュオOUR WRONGSさん。でも活動の拠点は東京らしいです。

ドゥームスラッジバンドDisrottedのメンバーでもあり、ノイズ中心のレーベルMy Lai Productionsを運営するAdam Jenningsさんと、インダストリアルノイズプロジェクトLIKE WEEDS(2018~)のKenny Sandersonさんの二人体制。

音はインダストリアル感があって好み

金属をいっぱい叩いている音が気持ち良いCDアルバム”Face Up To It”(2022年リリース)とカセットをいくつかリリースされています。詳しくはこちら(discogs)

 

しっかり演奏が見える動画を見つけたので貼っておきます。同じく落合soupでのライブとのことです。

Our Wrongs Live 19/10/2019(19:47)

Horror show (UK)

2組目はイギリスのソロの方、Horror showさん。メタリカの曲をいくつもサンプリングしたノイズDJという感じ。メタリカが好きなのかアンチなのかコンセプトはよく分かりませんが、「メタリカを爆音でノリたい!」となってきたらノイズで打ち消されてしまう、アレ管理的な独特のプレイでした。

けっこう調べてみましたが、活動期間が短いのかアーティスト情報がぜんぜん出てきません。

 

たぶん関係ありませんが、Frequency Centralというイギリスの音響機器メーカーの製品で、4HP のノイズ ジェネレーター/デジタル リング モジュレーター/サブ オシレーターを組み合わせた”Horror Show”というものがあったので紹介動画を貼っておきます。

Frequency Central feat. Horror Show – 4HP filtered noise generator/digital ring modulator/sub osc(3:10)

Leah P (USA)

3番手Leah Pさんは2008年に活動を開始したアメリカの女性ノイズアーティスト。見た目に反して凶悪なハーシュを奏でるギャップがツボ。ハーシュ系のインディーレーベルOxenのプロデューサーでもある方。

こまかく刻むタイプのハーシュは大好物

 

CDとカセットで4点ほどアルバムをリリースされています。詳しくはこちら

眼鏡のLeah Pさん動画↓

Kazumoto Endo

4組目として登場したのが1990年代から活動を続けられているKazumoto Endo(遠藤一元)さん、当初はKiller Bug名義でした。さまざまな海外レーベルから作品がリリースされています。最近では韓国打楽器奏者のKaori Komura (香村かをり)さんとのコラボアルバムをリリースしていたり、その他のノイズの方といろいろコラボしています。

変幻自在のベテランハーシュは圧巻で貫録があり、シンプルに好み。(最初に感銘を受けたノイズはMERZBOWとのこと)

 

↓2019年のライブ動画。

Kazumoto Endo Live at Warsaw-Tokyo Underground Sound Festival, Jan 19th 2019(19:15)

Unsustainable Social Condition (USA)

5組目は2015年くらい?から活動されているアメリカのハーシュ兄貴Unsustainable Social Conditionさん。ノイズレーベルOxenのオーナーでもあるMatt Purseさんによるノイズユニット。腰の入った粘りのある剛のハーシュで、ごはん3杯いけるやつ。

 

Matt Purseさんは、3組目に登場したLeah Pさんの旦那さんだそうで、世にも珍しいノイズ婚。

Slit Throats (USA)

ジョージアの暴れん坊将軍ことSlit Throatsさん。Roman Leyvaさんによるこちらもゴリゴリのハーシュユニット。日本の女子プロレスが好きすぎて、リリース作品のいくつかに”Joshi Noise Worship(女子雑音崇拝)”というシリーズ名を付けて、女子プロレスを曲のコンセプトにしています。

まさにプロレスのごとくキレのある動きで、観客を巻き込むパフォーマンスがGOOD。

 

2022年のライブ映像。ちゃんと女子プロ映像が流れています。

SLIT THROATS live in Grand Rapids 10-08-2022(11:00)

 

言われなければ音にプロレス感は感じませんが、言わればプロレスのエクストリーム感が見えてきます。見えるか見えないかはあなた次第!

Blackphone 666(黒電話666)

名前のとうり音源に黒電話を用いる日本のノイズアーティストBlackphone 666さん。2001年ごろからライブシーンを中心に活動。

静かな部分があったり、インダストリアルなビートがあったりしますが、しっかりハーシュやアジテーションもあり表現豊かなサウンドが特長。ハーシュ系のライブはインプロビゼーション(即興性)が多い中、黒電話さんは曲を曲として演っているのが他とは大きく違うところ。今回ストロボライトが点滅しっぱなしだったので、視覚的にダメージくらっている人がいました。まさにバイオレンスダイヤル!(?)

5年前のライブ映像ですが

超カッコイイ

黒電話666 (BLACKPHONE666) @ higashi-koenji 二万電圧 2017-12/30(22:06)

 

2021年リリースのカセット。どこか懐かしいガバなテクノビートがちゃんとあるパワエレノイズの曲群。いわゆるハーシュオンリーな作品とは一線を画しますが、それもまた良い~~。

INCAPACITANTS

キ・タ・コ・レ!!!

1日目のトリは、世界に誇るジャパノイズの重鎮、泣く子も黙るINCAPACITANTS(インキャパシタンツ)さん。非常階段のメンバーであったT.美川さんが1981年にソロでスタートし、途中で同じく非常階段のコサカイフミオさんが加わった最強ノイズDUO。

お二人のアグレッシブなプレイでこの日イチの盛り上がりとなっていました。

40年以上ノイズを続けているオーラというか貫録というかエネルギーみたいな、サウンドや演奏テクニックだけではない何か別のパワーが確かにそこあり、言い表せない衝動が鳥肌とともに湧き上がるのを感じました。

 

INCAPACITANTSのお二人が、これまでの歩みを振り返りつつ自分達の音楽やノイズについてのこだわりを語られた貴重なドキュメンタリームービー。

Incapacitants the movie(43:53)

2日目 2023.6.11(日)

フェスの2日目。この日からグラインド系が参戦、ドラムがセッティングされました。昨日と同じく最初からお客さん多かった気がします。

Scum + Government Alpha

トップバッターはぜいたくなノイズコラボユニット。井元 聡さんによるScumと吉田恭淑さんによるGovernment Alphaの激熱ハーシュ二重奏で、オープニングから鼓膜が破壊されます。

腹に響く多彩な音が最の強!

Scumは井元 聡さんによるハーシュノイズユニット。2010年から活動をスタートし、さまざまなアーティストとのコラボ、スプリット含め国内外レーベルから積極的に音源をリリース。グラインドコアがルーツの一つとのことで、1曲の長さは短めです。

 

Government Alphaは、1992年から活動している吉田恭淑さんのメインノイズプロジェクト。ノイズレーベルXerxesを運営し、数々の作品をリリース。市川雷蔵リスペクトから生まれたサムライハーシュアルバム”斬:KIRU”が個人的お気に入り。

 

2018年のライブ映像。

scum + GOVERNMENT ALPHA – Live @ Flying Teapot, Ekoda, Tokyo (2018/03/21) (1/2)(1:56)

Mortify

1日目から通算10組目にしてようやくギターとドラムが登場。2017年結成の超速グラインドコアバンドMortifyさん。ボーカルの Adam Jenningsさんは、1日目のトップバッターで登場したノイズデュオOur Wrongsの人。ドラムは自身でレーベルY Recordsも運営されているRyohei Kikuchiさん、ギターはTakuya Koreedaさん。超速でデスボで1曲短いですが、リズムがあるってだけで格段にノリやすくなります。

ラップトップとバンドはスタイルとして大きな差がありますが、音の密度という点でノイズとグラインドは親和性大アリ。個人的にはノイズ好きでしたが、グラインドもイイネ!

本フェスの狙いを感じ取ることができた良きGIGです。

 

2018年の初ライブ映像。

Mortify 1st Gig 2018/01/21(6:30)

Spore Spawn

新潟発、2010年より活動を開始しているソロノイズプロジェクトSpore Spawnさん。主催のAndoさんは16 Shots Per Second Recordsという自主レーベルも運営しながら、カセットやCDで積極的に作品をリリース。

バックに不穏アンビエントを敷きつつ、謎の入力装置からの絶叫、予測のつかないタイミングで振り下ろされるハーシュ斬撃がとても心地よく、間もしっかりあることで全体的に静な印象。リリース音源をいろいろ聴いてみてもその世界観は一貫しており、好みは別れるかもしれませんが、個人的には超好みすぎ

 

2019年新潟でのライブ映像。 ↓

SPORE SPAWN live 9/15 新潟Niigata(27:52)

Cunts

2日目の4組目は、Japanese No.1 Drum’n’Voice Bandと銘打つノイズグラインドのカンツさん。2003年結成で、ドラムFuckin’ Aさん(4代目)と、極東極悪雑音専門レーベル死体カセットを運営するボーカルUcchyさんの2人体制。

アナ〇カン〇の遺伝子を受け継ぐアンチミュージックの系譜ではありますが、”弦楽器なし”は教義への到達により適したスタイルではないか?と思わせるほどの音圧と盛り上がりがありました。ラストの曲を「速さが足りなかった」からやり直したり、グライン度への執着が常軌を逸してます。

 

モノは試しに一度聴いてみると良いでしょう。ハマってしまっても当方は一切責任負いかねます。

Wolf Creek

5組目、ハーシュノイズユニットWolf Creekさん。Ryota Ogasawaraさん、 Shota Izawaさんのコンビ、2016年に高校生ながら結成した期待の若手ユニット。ナゾの流血事件が起きるほどアグレッシブなステージで、途切れることのない大満足のしっかりハーシュ

 

ジャパノイズの未来は安泰しかないですね。

Wolf Creek@Tokyo 03.13.2022. [SONE mgzn #1](25:47)

Nikudorei(肉奴隷)

6組目に満を持して登場したのは伝説のノイズグラインドバンド肉奴隷さん。1994年結成、途中活動休止の期間がありましたが2022年に復活を遂げ今年は結成29(肉)周年のアニバーサリーイヤー!ドラムYamazakiさんとボーカルOkadaさんの2人体制で、「フリースタイルグラインド」「過激なパフォーマンス」なライブが特長。

あ…ありのままこの日起こった事を話すぜ!

「最初に謎の人物が写ったモノクロのビラが配布された…するとセクシーシーンのSEが大音量で流れだした…ボーカルが客席中央に移動し一定のリズムで何かを繰り返し叫び、都度ドラムが呼応する…そこから何か展開するのかと思ったら最後までそれだった」

な… 何を言ってるのか わからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった… 頭がどうにかなりそうだった… グラインドだとかノイズだとかそんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ…もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

音楽ていうか表現的なライブでとても楽しかったです。

 

 

 

下の絵に特に意味はありません。

Slit Throats + USC

ラス前、1日目に登場していたSlit ThroatsさんとUnsustainable Social Conditionさん二人のアメリカノイズ野郎Aチーム。グラインド勢の熱も加わってナゾの盛り上がりを見せていました。謎の金網とアルミ箔?みたいなものを音源として魂を叩きつけるSlit Throatsさんのプロレス好きが伝わってきます。

 

同じく1日目に登場していた女性ノイジシャンLeah Pさんのチャンネルに、この日のプレイ動画がアップされていました。みなさんお友達のようですね。

Gore Beyond Necropsy

大トリはジャパゴアグラインドの重鎮Gore Beyond Necropsyさん。1989年結成、途中Noise A-Go-Go’sに改名してますが今年GBNとしてしばらくぶりに復活、ノイズ1名(元はギター)含む5人編成です。

はじめにボーカルOhmichiさんが行方不明になるというトラブルはありながらも、そんなのを含めた良い意味での”雑味”がグラインドの本質である!と言わんばかりのノイジーで攻撃的で速くて重いプレイで会場を沸かせました。

 

この日の演奏動画、少しだけ。

Machine Parts Fest Day 2 – Ochiai Soup – Gore Beyond Necropsy 4 – June 11th, 2023(2:21)

まとめ

一部マスクの人がいましたが、半分以上の方はノーマスクだったような気がします。一時は産業自体の存続が危ぶまれましたが、またこうして大声出してライブを楽しめるようになったことはとても感慨深いです。

ここであらためてフェスタイトルMACHINE PARTS FESTの意味を考えてみます。

機械はいろんな部品で構成され、基本的にはどれが欠けても機能しなくなります。コロナ禍で世界の価値観は大きく揺らぎ、「酒や音楽やライブなんてなくてもいいのでは?」なんて風潮も生まれいったんなくなりかけましたが、結局完全にはなくならず復活しました。今回のフェス名を、ノイズ含むマイナーカルチャー、ひいてはライブや音楽産業が「なくてもいいもの」ではなく、「機械部品のように欠けてはいけないものである」宣言、と捉えるとちょっと胸が熱いです。

ぜひ今後も継続してほしいフェスです。

 

下の絵に特に意味はありません。

おすすめ音源

飲食店でよくある「日本酒の飲み比べセット」とか「〇〇食べ比べセット」みたいな感じで、いろいろな味を一度に味わうことができるコンピレーションアルバムが、ノイズエントリー層の方にはおススメ。2枚ご紹介します。

 

FLOWERS IN CONCRETE -COMPILATION FOR SOUP-

Capturing The Wind, a Japanese Noise Compilation

アメリカのレーベルDada Drummingから今年リリースされた、日本のノイズアーティスト14組を集めたコンピレーションCD。それぞれの最新音源が集約され、日本のノイズシーンの今を手っ取り早く知るには最適な1枚。現時点Amazonでは買えませんが、楽天(HMV)、タワレコ、discunionからは7月末発売として予約可能。死体カセットならすでに買えて安い!

収録アーティスト:Government Alpha/P.O.V/Kazumoto Endo/scum/Astro/KAZUYA ISHIGAMI/NP/Thirdorgan/Hiroyuki Chiba/MO*TE/Spore Spawn/K2/Kazuma Kubota/Kazumoto Endo And Kaori Komura