【ライブレポート】日米アートノイズの狂演!”MSHR JAPAN TOUR 2023 Tokyo DAY3″ MSHR/Shinjimasuko/MERZBOW/黒電話666 @下北沢SPREAD 2023.5.27

【ライブレポート】日米アートノイズの狂演!”MSHR JAPAN TOUR 2023 Tokyo DAY3″ MSHR/Shinjimasuko/MERZBOW/黒電話666 @下北沢SPREAD 2023.5.27

超久しぶりに外出してライブ見てきたのでレポートします。お目当てはもちろんノイズ界の至宝MERZBOW(メルツバウ)大先生です。

 

企画と会場

企画としては、アメリカのアーティストMSHRさんのジャパンツアー「MSHR JAPAN TOUR 2023」の東京会。東京以外に大阪、名古屋、広島、福岡などを回り、各地でさまざまなゲストアーティストが共演。MSHRさんは2011年に活動を開始した男女2人組で、ノイズミュージシャンというよりはアートパフォーマー的な感じです。

会場は下北沢の駅からすぐのSPREAD。オシャレで清潔なイメージがあり、ちょっと狭めですがコレ系の箱としては程良い感じかと思いました。

下北沢SPREAD

この日はMSHRさん含め合計4組が演奏しましたが、最初からけっこう人が多くなかなかの盛況ぶり。飛んだり跳ねたりのジャンルではないので落ち着いて見れましたが、ちょっと移動するには骨の折れるくらいの混雑さでした。

なんとなくの印象ですが来ているお客さんは以下の感じです(多い順)。

  • 音楽マニアっぽい欧米系外国人
  • 若めの下北系男女
  • 雰囲気地味めのノイズガチ勢
  • ピアス&タトゥーに遠慮がないクラブ通い系

メインのMSHRさん目当てなのか、外国の方がとにかく多かったです。日本観光の弱点は「夜遊ぶ場所が少ない」らしいので、実はけっこう観光客が占めていたかもしれません。

 

黒電話666

最初に登場したのは黒電話666(Blackphone666)さん。Twitterもフォローさせてもらっていて知ってはいたのですが、ライブで見るのははじめてでした。結論から言うと、

超カッコイイ

でした。

名義にもなっている黒電話を楽器として使っていて、唯一無二感パなかったです。

blackphone666

約30分の中でおそらく3曲?演奏でしょうか、ずっと轟音垂れ流し系ではなく緩急(清濁)差のある展開が特長で楽曲として聴きやすいノイズだと感じました。マイクおよび黒電話でのシャウトも印象的で、途中で客席側に入るなど見て楽しいプレイがGOOD。はじめのあたりはドラムンベースなビートもあり初心者にも優しい感じでしたし、動きと音がちゃんと連動するのは見ていて安心しますね。

ポイントはやはり「間」でしょうか。押し引きの引きがあることで押し部分(ノイズ部分)がしっかり際立つ感じ、料理で言うと【あまり手を加えず素材の良さを活かす系】ですね。(適当)

 

こちらの動画でプレイの様子がしっかり見えるのでご参考に。

黒電話666 | BLACKPHONE666 ▶︎BODY(19:22)

Shinjimasuko

すいません、存じ上げなかったのですが、調べによるとDMBQというバンドの増子真二さんのソロユニットだと思われます。見た場所が悪くてほとんど演奏の様子が見えず、おそらくお一人な感じでしたが確信が持てません。この日の4組の全プレイヤーの中で唯一まっとうな楽器「ギター」一本でのスタイルが逆に目立っていたと思います。

結論を先に言うと、

超カッコイイ

でした。

30分1曲勝負だったのですが、はじめは「チューニングしてるのかな?」みたいな単音のみの静かなリピート。そんなアンビエントギターから少しずつほんとに少しずつエフェクトが追加されていき徐々に音色が変わっていきます。「あれ?いつのまにこんなにラウドになったんだっけ?」と思うくらい、いつの間にかギュワーンって感じになっていて、最後のあたりでギュビャギュビャギュウウウウン!!と最高潮になるようなとても腰の入った鬼カッコイイ構成でした。

ボーカルやリズム隊系の音が入ってないのに物足りなさは一切なく、あの後半のノイジーでラウドな音圧は鳥肌級。何十年も同じ工芸品を作り続けている職人が達した境地のような、「シンプルだが圧倒的美しさを湛えたノイズ」という印象です。あれです、展開としてはみんな大好きジョン・ゾーンのレンツェを彷彿とさせます。

家に帰ってから動画や音源を探してみましたが見つかりません。DMBQのベースの方とのユニット「Moan」の音が近いですが、たぶんコンセプトが違う感じです。

え~と、もっと見たい!

MERZBOW

今回のお目当て、ノイズの帝王MERZBOWさん。言わずと知れた秋田昌美さんによるヴィーガン・ストレイト・エッジ・ノイズ・プロジェクト。ライブで拝見するのは10年ぶりくらいでしたが、当時と変わらない安定と信頼のサウンドでオーラ出まくりの30分。

結論を先に言うと、

超カッコイイ

でした。

merzbow

毎回そうなのですが、アルバムで発表された曲を演奏するというものではなく、持ち時間いっぱい即興的なプレイで音を放出し続ける感じです。ただしアルバムが400枚以上リリースされているので、断言はできません。絶え間ない轟音ノイズの津波に約30分飲み込まれるので、人によってはダメージが発生する可能性があります。

よく映画とかで狭い部屋に閉じ込められて大量の水が流れ込んでピンチ!みたいなシーンありますよね。あんな感じです。開始1秒で会場がノイズの濁流で一気に満タンになり、その抵抗力で身動き取りにくくなります。その濁流は循環され決して引いていくことはありません。

心地よい爆音振動と、海やプールに全身浸かっているときのような包まれ感で、最初のあたりはとても気持ちイイです。人によってはイッてQしまうかもしれません。しかし時間とともに命の危険を感じてきます。精神的には楽しんでいるのに、肉体がその音の危なさを察知して危険信号を発するのです。気持ちよく海に浸かっていたら息が苦しくなり、浮上しようと思ったら意外に深くまできていて水面まで間に合わない!死んじゃう!と絶望に包まれる感じ……それでも音は止まりません。

そんな疑似死感を乗り越えると、解脱の境地に達します。

脳汁吹き出してそれまでの苦痛が消え去るのは、あれですかねサウナでいう「ととのう」みたいな感じですかね。依然ノイズの轟流は止んでいないのですが、清らかな川のせせらぎのように感じてきます。俗世のしがらみ、抱える不安や悩みがどうでもよくなり、音と一体化して自己が無になるイメージです。

 

※個人の感想です。

 

こちらの動画でプレイの雰囲気が分かりますのでご参考に。

Merzbow Boiler Room Tokyo Live Set(21:45)

 

MERZBOW OFFICIAL

MSHR

トリはアメリカからお越しのMSHRさん。冒頭でも書きましたが、音楽以外にもCGや彫刻、インスタレーションやパフォーマンスなど多彩なアート活動をされているとのことです。

会場の中心に何やら謎の機械で埋め尽くされたテーブルが設置され、Birch CooperさんとBrenna Murphyさんが向かい合って、謎機械を手に持ってスタートするというちょっと出会ったことのないスタイル。お客さんがぐるっと周りを取り囲んで見守ります。

結論を先に言うと、

超カッコイイ

でした。

mshr_live

PCと謎の機械群で音を出していて、マイク等によるボーカル(シャウト)はありません。原理はよくわかりませんが、おそらくテーブルに設置されたセンサー的なものと手に持つ謎道具の即興的な動きで音や光が発せられていたと思います。終いには二人が手を接触させる位置や長さによって音が変化、肉体=音源という神秘的なプレイスタイルになっていました。

音自体はとてもスターウォーズ。

特定のリズムはほぼありません。前半はピコピコとかキュインキュインみたいなシューティングゲームのSEのような乾いていてライトな電子サウンドが続きます。だんだん後半になってくると低音リバーブが効いてきてシンプルに好み。調べてみたところ、以下のようなコンセプトがあったりするようです。

この作品は、相互に共鳴するハイパーオブジェクトを彫刻するために、アナログ回路とオープンソースソフトウェアとして実行されるデジタルチップコングロマレートを使用して、音と彫刻のフォーム間の直感的かつ技術的な勾配を探ります。

な…なるほどね!勾配探る系ね!

 

あと光がスゲェ!

演奏してる二人はサングラスしてましたが、確かにサングラスしたくなるようないろいろな色の強い光がビカビカと会場全体を明滅させます。あれです、テレビとかでたまに出る「強い光にご注意ください」的なやつの本気版です。視覚に刺激を与えるノイズミュージックならぬノイズライティングと捉えるとちょっと新しいかもです。

 

ほぼこの日のライブと同じ内容の動画があったのでご参考に。

MSHR live at COX 18 / Hundebiss Night(30:03)

 

MSHR OFFICIAL

まとめ

シューマイのCMで小栗旬さんが「これが家で食えたなら…」と言ってますが、まさにそれです。

これが家で聞けたなら…

ノイズは爆音で聞くに限ります(耳ぶっ壊れますが)。

 

どれ頼んでも美味しい飲食店のように、今回はみなさん個性的でどれもカッコ良くて満足でした。その中でもアメリカと日本の音の違いはあるなぁ、みたいなことはふと思ったので述べておきます。(たまたま今回聞いた音だけでの印象なので読み流してもらってOKです)

何かですね、MSHRさんの音はカラッとしていて、日本の3組はそれに対してじめっとしていて湿度があるような違いを感じたのです。MSHRさんの地元オレゴン州は夏でも最高25℃くらいで湿度も低いらしいので、そんな気候の違いが音にも影響している?とも思いましたが、もう一つ別の考えが浮かびました。

死の原体験です。

一般的にノイズとは不快で避けたいものとされています。そして究極の不快は死。不快音を蒸留して増幅するノイズミュージックが得てして暴力的で破壊的である一因は、究極の不快=死のメタファーを含んでいるからに他ならないと常々思ってました。なのでその性質にお国の違いが生まれるとしたら、死の原体験の違いが大いに影響するのでは?と考えたわけです。

アメリカも日本も身近な日常にリアルな死はそうそう転がっていませんが、TVやネットなどのメディアからは日々垂れ流されているわけで。そのような記号としての死の性質は以下のような違いがあると考えます。

  • アメリカ:西部劇やスターウォーズが育む銃殺文化
  • 日本:厳しい銃規制&時代劇が育む刺殺文化

銃殺音は乾いた破裂音で、流血も少なく相手の肉体に直接触れることもなくドライな印象。刀剣による刺殺はズビュッ!というウェット音で流血も多め、相対的に水分を多く感じる死なのです。そんな違いが日米ノイズの風味差の要因な気がしました。

 

昔に比べて轟音ライブ聞き終わっても耳がキーンとしなくなりました。これは耳がバカになってしまったからでしょうか。一度聴力が破壊されると回復はしないそうでなので、みなさん初めてノイズライブに参加する際は耳栓などで対策を取ると良いでしょう。

 

おしまい

 

おまけ落ち武者動画

まったく本文と関係ありませんが、下北沢と言えばこのMVしか思い浮かばないが過ぎますよね。

【MV】アイリフドーパ(AILIFDOPA)「Shimokitazawa」-Project J-Rock- 3/3(5:22)