【鬼畜映画】キャッチコピーに偽りなし!「セルビアンフィルム(4Kリマスター完全版)」は残酷映画の極北ではあるが実はセルビアという国そのものを描いたトラウマ名作!!

【鬼畜映画】キャッチコピーに偽りなし!「セルビアンフィルム(4Kリマスター完全版)」は残酷映画の極北ではあるが実はセルビアという国そのものを描いたトラウマ名作!!

2022年7月は見たい映画が目白押しです!

その第3弾『セルビアンフィルム(4Kリマスター完全版)』を観てきましたのでネタバレありで感想書きます。

第1弾『哭悲/The Sadness』のレビューはこちら

第2弾『X エックス』のレビューはこちら

※トップ絵はイメージ

 

基本情報

実は初見だったのですが、結論から言うとウマコンとして最高評価です!

まずは基本情報をどうぞ。

  • スナッフ・フィルム製作に巻き込まれる家族の映画
  • 現代のセルビア?が舞台
  • 2010年公開、セルビア映画
  • 監督:スルジャン・スパソイェヴィッチ
  • 脚本:アレクサンダル・ラディヴォイェヴィッチ
  • 原題:A Serbian Film
  • R18+
  • 世界46か国以上で上映禁止

 

ストーリー(あらすじ)

引退した元ポルノスターのミロシュは、美しい妻と幼い息子の3人で平穏に暮らしていた。しかし、かつて共演した女優から海外向けの大作ポルノで高額のギャラが支払われるという仕事の誘いを受けたことで彼の人生は急転する。経済的に困窮していたミロシュは依頼を引き受けるが、撮影が始まるとそれはなんとブラックマーケット向けに本当の拷問と殺人を記録する、邪悪なスナッフ・フィルムだった!真実を知ったとき、すでにミロシュの逃げ場は絶たれていた。そして、彼はさらに想像を絶する底なしの地獄を体験することになる…。

引用:セルビアンフィルム 4Kリマスター完全版公式サイトより

 

内容は謳い文句どおり、邪悪、鬼畜、胸糞、残酷…あらゆるマイナス感情をMAXに刺激する恐るべきモノとなっており、トラウマ必至級の作品。見るにはちょっと覚悟しておいた方がいいかもしれません。

 

監督はスルジャン・スパソイェヴィッチ(Srdjan Spasojevic)さん、これ以外の長編映画の作品はないようです。あまり詳しい情報が見あたらなかったのですが、この1作で描きたいものを出し切ってしまったという感じでしょうか。

確かにそんな凄みを感じる作品です。

 

パンフレットにも同じようなことが書いてありましたが、海外の監督インタビュー記事からのコメントを抜粋します。

セルビアンフィルムは、セルビア政府が民衆に対して行う虐待の日記。それは、独裁的なリーダーからしたくないことをするよう催眠術をかけられていることを表している。

※細かい翻訳ニュアンスは異なっているかもしれません。

 

セルビア周辺は、近代で民族対立や紛争・虐殺といったキーワードが多く登場し、セルビア自体も今のセルビア共和国となったのは2006年のこと。長い動乱を背景に独裁者や国家から蹂躙・虐待されていることのメタファーがこの作品の本質でした。

 

だからタイトルが『セルビアンフィルム(セルビアの映画)』なのです。

 

この点を知っておくとまったく映画の見え方が変わる恐るべき作品です。

 

 

劇場

上映劇場の詳細については以下の公式サイトでご確認ください。

※東北地方では上映されません!

 

予告映像です。

表面的な見どころ

単なる残酷趣味映画ではないドラマ性がしっかりあり、先に述べた本質を知らずとも完成度の高い作品として楽しめます。いくつか見どころをまとめてみました。

※以降ネタバレありで書きますのでその点ご注意ください。

 

絶倫テクニシャンだったが家族思いで妻一筋な主人公

引退したポルノ男優である主人公ミロシュが、キャラとして文字どうりバッキバキに立ってます

ただの男優ではなく、相手をした女優は必ずミロシュを好きになってしまうとか、視覚的な刺激がなくとも一瞬でフル○起させることができる、などの逸話をもった「伝説の男優」ってのがカッコイイ。スナッフ監督ヴックミルも、ミロシュのマシーンのような鬼ファ○ク力に惚れ込んで勧誘したのでした。

そんな彼ですが、妻や子供には優しくとても家族思いのイイ奴。奥さんが激しいのを求めた時も「愛しているキミにはファ○クはしない」的なイケメン発言をしていました。ヴックミル作品に出演が決まってから、ストイックに肉体づくりに励む姿は「昔の勘を取り戻す師匠」感があり胸熱です。

そんな真面目な彼があんな事になってしまうなんて…

 

高い構成力・演出

残酷描写に注意を持っていかれがちですが、構成とか演出の上質さがあると思いましたよ。

「女性を殴りながら」とか「子供が見ている前で」とか、だんだん撮影の要求が怪しくなってきたことでミロシュは出演をやめると言い出します。暗黒監督ヴックミルは「芸術としてこういうのを作るんだ!」と衝撃の過去作をぶっちゃけて説得しますが、当の然で逆効果。ミロシュは現場を後にします。

その帰り道で意識がなくなり、目覚めたら自分の家で3日程経っていた───。

この空白の3日間の行動をトレースしながら思い出していくと言うのが後半の展開なのですが、見事です。ネタバレすると、ミロシュは薬を打たれて自分の意志とは関係なく撮影が続行されていたのでした。ミロシュが現場に戻り撮影テープを盗み出してその状況を知ったり、自分で思い出したりとすでに起きてしまった過去が徐々に明らかになる描き方(構成)が、普通にリアルタイムで描写されるより残酷です。

まさに怒涛の後半戦なのですが、一つ嫌なシーン紹介しておきます。

盗んだ撮影テープに映っていたあるシーン。ヴックミルの手下に男もイケる男がおり、薬で意識を失っているミロシュに対して「これはオレのおごりだ」と言って楽しそうにシまくってました。何がおごりなのか意味も不明でヤバすぎです。

 

他にも、ミロシュのお兄さん(警察官)マイクが、弟の絶倫力に嫉妬していたり、美人の奥さんに欲情を抱いていたりするシーンもうまく見せているなぁと思いました。

 

心をえぐる残酷性

だいたい映画のキャッチコピーって、見終わった後「何か違うかったな…」となることがよくありますが、本作の

人でなしの映画。

これはまさにで、違わぬ残酷描写がてんこ盛りです。

しかし、セルビアンフィルムはいわゆる流血や人体破壊などのフィジカルなグロテスクシーンは意外と少なめで、逆にメンタルに刺さる残酷性が特長です。多くは語りませんが、新生児ポルノとかは衝撃で有名なシーン。これも思いついたからやってみた、ではなくて「生まれたときから搾取されていることを表している」というコメントが別のインタビュー記事にあり、納得です。

 

音楽がイイ

音楽で2つ良かった点を。

1つめは、ミロシュの美人の奥さんマリアが歌うセルビアの童謡みたいな歌、とてもきれいな声で上手なんですよね。作品内で2回歌うシーンが出てくるのですが、1回目と2回目の歌い方のギャップがね…もうね…泣きそう(ていうかちょっと泣いてた)。

2つめは、後半BGM。不穏で重苦しいけど静かなノイジーで大好物なやつでした。探したのですが、サントラっぽいのは見つかりません。途中でミロシュの心が壊れかけていくときに流れてたピアノ曲で、絶妙に音程外しているやつとか鳥肌モノです。

カッコいいテーマ曲(エンドロール曲でしたっけ?)をSoundcⅼoudで見つけたので貼っておきます。

 

TheBALKANBASS · Sky Wikluh – Pazi Sta Radis
 
 

感想

何か考えさせられるコンテンツって個人的に好みです。

考えさせられるということは何らかのメッセージが中に込められているからであって、その衝動が強ければ強いほど心の奥に届きます(その内容に賛同するかどうかは別にして)。

 

鬼畜監督ヴックミルは、芸術論的なものを持ち出していかにもそれらしいこと言いながらミロシュを勧誘しましたが、大事な部分ははじめに言いませんでした。本質は言わずに上辺だけの言葉で煙に巻く……これは日本にも通じる政治演説みたいなものではないでしょうか。

ミロシュは家族を養うために契約してしまいますが、我々も何かを人質に取られて国からゆるやかに搾取されている感がするのは気のせいでしょうか。

 

撮影最後のあのシーン、人でなし監督ヴックミルが叫びます。

「これがセルビアの幸せな家族だ!」

本人の意志と関係なくしたくないことをさせられる、弱者は理由もわからず搾取され続ける、それが幸せの形だと。ここ衝撃的すぎます。

日本の幸せな家族は、これとはまったく違うんだ!…と言い切れるかというとちょっと自信がなくて鬱になります。

 

………

 

マンガ「カイジ」の中で「世の中は利用する側とされる側の2種類しかいない」というセリフがあります。

我々が安全な劇場でこの残酷映画を楽しめているということは、すなわち利用する側(搾取する側)としてある種の安心感・優越感みたいなものを錯覚します。危険な鉄骨渡りをするカイジたちを安全な場所から見ている兵頭会長みたいなものです。(それを意識させられてしまうのも嫌~な気分ですが)

外道監督ヴックミルは、ずっと搾取するサイドでしたが最後は「あれ?実はヴックミルも搾取される側?」という衝撃展開になってしまいます。スパソイェヴィッチ監督から

のほほんと観ているキミらも搾取されてんぞ、気づけよ。

と言われているようでドキッとしました。

 

まとめ

後半の展開は残酷が過ぎるのですが、最後に感じたのは意外と「崇高な家族愛」です。

ミロシュ一家のあの最期の選択は、愛深きゆえ。

いとも簡単に予想できるその後の不幸な人生から逃れるには、最良の選択だったのではないでしょうか。しかし、その尊き家族愛すらも徹底的に踏みにじるセルビアンフィルム…恐るべしです。もう後には絶望的なほど暗い虚無しか残りません。

 

それでは個人的最終ジャッジを以下5段階から決定します。

1.円盤買って何度も観るべし!

2.映画館で観るべし!

3.レンタルされたら見てみよう

4.見放題で配信されたら見てみよう

5.見なくてよし

 

ドゥルルルルルルルルル……

 

デン!

 

1.円盤買って何度も観るべし!

 

文句なしの最高評価です。

これ系の映画としては「最もヤバいやつ」と認定していいのではないでしょうか。何度も見るのは憚られますが、一つの基準として本棚に並べておきたい名作です。行ける方はぜひ劇場でも鑑賞ください。きっと忘れられない思い出になることでしょう。

 

最後にセルビアン・フィルムあるあるを言います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泡ふきがち

 

 

おしまい

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ

 

次回予告…… 女神の継承! あとアドレノクロムも観たい! おたのしみに

 

セルビアン・フィルムの円盤はプレミアがついて中々入手困難です。GEOだと80円とかでレンタルできますがだいたい貸し出し中…。U-NEXTは2023.6.3時点ポイント視聴(399ポイント)で見れます。