【エッセイ集】お尻も視野もバーーンと広がる一冊「ぐろぐろ」は世界の不快からみんなを守る正義の書│松沢呉一/ロフトブックス→ちくま文庫

【エッセイ集】お尻も視野もバーーンと広がる一冊「ぐろぐろ」は世界の不快からみんなを守る正義の書│松沢呉一/ロフトブックス→ちくま文庫

前置き

漫画やグロ画像でトラウマることはよくありますが、活字だとなかなかそうはなりませんよね。

活字は、そもそも見る側が文字を読めなければいけないし、漢字や言葉の意味を知っていないと内容の理解ができません。そんなハードルもあり、活字は、読み手をトラウマらせるには不利な表現手法なのです。

腐乱死体

この文字だけ見て「ギャーっ!怖ーーいっ!」ってなる人は少ないと思います。

でも、実際の腐乱死体を見たら「ギャーっ!怖ーーいっ!」ってなって、猫の写真を検索して必死に忘れようとしますよね。そんなトラウマに不利な活字表現でも、心に強い衝撃を与える一冊、それが今回紹介する「ぐろぐろ」です。

とにかく破壊力バツグン、人によっては口から美しいものが出ちゃうかもしれませんのでご注意ください。

※トップ画像はロフトブックス出版による初版

ぐろぐろ基本情報

もうですね、「のどぐろ」とか「石黒」とか聞くたびに、この本を連想するほど大好きな一冊です。

●著者:松沢呉一

●1998年初版第1刷発行/ロフトブックス(星雲社)→2003年筑摩書房発行に

●ヘヴィメタル雑誌BURRN!で、1993年12月号より連載されていたエッセイ「〇〇〇は負けず嫌い」をまとめ改題したもの (〇〇〇=肛門の英語:以下同)

著者の「松沢呉一(まつざわくれいち)」さん、BURRN!のこの連載で初めて知りました。当時は「エロライター」という肩書でしたが、今は違うそう。とにかくユニークで多彩な着眼点で、そのテーマの本質を探りぬく”探究者”だと思います。

松沢呉一

1958年生。早稲田大学法学部卒。コラムニスト、編集者、フリーライター、古本蒐集家。会社員として音楽や放送、宣伝関係の仕事に携わるなどしてから、何でもこなせるフリーライターへ。活躍ジャンルは幅広い。ここ最近は社会問題、政治、宗教などにまでテーマを広げて活躍中。性風俗関連の著作は特に膨大。

『ぐろぐろ』(ちくま文庫)『風俗ゼミナール (女の子編)』(ポット出版)『クズが世界を豊かにする─YouTubeから見るインターネット論』(ポット出版)『エロ街道をゆく―横丁の性科学』(ちくま文庫)『えろえろ』(ポット出版)『松沢堂の冒険 鬼と蠅叩き』(翔泳社)『エロスの原風景 江戸時代~昭和50年代後半のエロ出版史』(ポット出版)等、著作多数。

引用:松沢呉一のビバノンライフ

松沢呉一のビバノンライフ(WEBマガジン)

で、このコラムが連載されていた「BURRN!(バーン)」は、メタル界では有名な月刊ヘヴィメタル雑誌。好きなアーティストが特集されている時と毎年1月号(シールなどの付録が付く)を買っていたのですが、立ち読みでこのエッセイを見た時に衝撃が走りました!

BURRN!はじまったな!

と。

コラム内容はヘヴィメタルとほぼ関係がありません。連載1回目の記事に書かれていますが、「どういう連載にするかこれを書いている時点で決まっていない」というのも衝撃でした。

そしてタイトルが秀逸すぎます。

〇〇〇は負けず嫌い

「何?どゆこと?」と、絶対見過ごすことのできないタイトルです。このタイトルで本屋に並んでいたら売れるかどうかは別にして最も手に取られた本のタイトル大賞を受賞するでしょう。

この言葉は、松沢さんがSM雑誌「S&Mスナイパー」の編集長から教えてもらったフレーズで、座右の銘とのこと。

どういうことかと言うと

世の中には「〇〇〇マニア」という肛門に異物を入れる事を好む人たちがおり、あることで競い合っている。なぜかMジャンルの中でも〇〇〇マニアの人たちは、競争心が強く負けず嫌いである。

そこからいかに多くのことを学んだかが、連載1回目にまとめられています。で、この連載1回目が発表されたあと、奇跡が起きます。

このコラムを読んだ女性読者から、BURRN!編集部へ抗議の文書が送られてきたのです。「どうしてメタル雑誌で、こんな連載をやるのか。もし子供が見たらどうするのか」と。

松沢さんは、この読者を不快にさせてしまったことを申し訳なく思い、連載3回目で謝罪と反省文を書きます。以降、そんな読者が不快に思うかもしれない事項を毎回とりあげ、「二度とそういうことは書かない」と宣言する【謝罪コラム】として連載の方向性が定まったのです。(笑)

不快なモノ・コトは2つに分類できる

ま~ありとあらゆる不快なモノ・テーマが取り上げられていますが、何を不快と思うか不快と思わないかは人によって違いがあります。松沢さんもゴキブリは平気だがクモが苦手とのこと。私はどっちも苦手。

それでも連載1回目の抗議読者に対して「このテーマもあの方は不快に思うかもしれない」と、執拗にそして丁寧に尽きることなく不快テーマを取り上げ続けていきます。その姿勢に頭が下がります。

この不快テーマは2つに分類できるのではないかと考えます。

1.知ってはいるが目を背けていたテーマ

2.知らなかった世界

どちらも大事ですね。1はウンコとかゴキブリとか。普段目を背けるものですが、どれも世界を構成する需要な要素の一つで、ないことにはできません。不快だからと目を閉じずに、これを機会にきちんと向き合ってみましょう。「どういう部分が不快なのか」をきちんと自身で言語化できたら、もしかしたら不快だったものが不快でなくなるかもしれません。

松沢さんは不快なモノに対して「二度と書かない」「世に出さない」という姿勢で、対処療法的な手段を取ろうと言ってはいますが、実は改めて向き合うことにより不快と思わなくなる、原因療法的効果を狙っているのだと考えます。優しさにあふれていますねw

2は、「こんな考え方の人もいる」というスーパーマイノリティの話です。(例えば女性のゲロに性的興奮を感じる人の話だとか)もうこれらは単純に勉強になり、視野がバーーン!と広がります。視点取得の記事でも書きましたが、「こんな人もいるんだ」というパターンを多くインプットしておくことで、視点取得が捗り無駄な衝突が避けられ、相手の気持ちを理解できる懐の深い人になることができるでしょうww

好きなポイント

このエッセイ集の大好きポイントが2つあります。


ひとつめは、ただ不快な事象を並べるだけでなく、ちょいちょいはさまるテーマから発想されるユニークな妄想話がとても良いスパイスとなっていること。本人は「くだらない」と評していますが、ココがとーーっても面白いです。

●文部省推薦児童図書『アベルは負けず嫌い』

●『セ〇クス見物屋』

この2つが大好きです。詳しくは書籍でご確認を。

もう一つは、読者を大事にする姿勢

読者から「こんなテーマを取り上げてほしい」とか「こんな不快体験がありました」みたいな投稿があり、それを記事にしていく双方向な回などがあります。そもそもこのエッセイが、連載1回目抗議読者への謝罪であることなど、とても読者を大事にしています。この連載は決して「不快にさせてやろう」という悪意で書かれたものではないのですww

一般の人が知らない事について「こんなこと知らないだろう?」というような知識をひけらかす感もまったくなく、子供が読んでも読みやすい・わかりやすい文体となっていますので、普段あまり本を読まないという方にもおススメです。

印象に残った回

印象深かったテーマをひとつあげるとすると「身体改造」の回。

「殺し屋1」の記事でも触れましたが、ケロッピー前田さん(記事内では前田亮一氏)から聞いた、サブインシジョンやトレパネーションの話です。もう改造って域をはるかに突き抜けてますが、自分の手首切り落としちゃう人の話は衝撃でした。

身体改造は最近だとクレイジージャーニーで一気にメジャーになった感じですが、この記事が書かれたのは98年。山本英夫先生の漫画「ホムンクルス」の連載が始まったのが2003年…時代を先取りしすぎてましたね

まとめ

見たくない聞きたくない

この本を読むと、まあ当然なのですが世の中知らない事の方が多すぎるということを思い知らされます。「子供に見せて良いか」と問われれば、ちょっと躊躇してしまいますが、中学生くらいであればぜんぜん良いのではないでしょうか。ぐっと、じゃなくてバーーン!と視野が広がって、将来、独創的な発想力で日本のコンテンツ産業を牽引する立派な大人になるかもですよ、お母さん

「ぐろぐろ」は、快と不快の境界線という難しいテーマに切り込み、それまで見ないようにしてきたことを否が応でも直視させられます。そのことで、ぼんやり生きてきた自身の価値観軸を再確認することができ、「明日からまた頑張って生きていこう」と前向きになれるグロ良書です。

トラウマポイント

  • 性的なワードや話が多発します
  • 人によっては全部ダメ
  • なんか最近トラウマに出会えてないないなぁ、なんてお悩みのあなたに朗報! 豊富なラインナップからきっとあなたにぴったりのトラウマが見つかります!
  • 「ウンゲロ譚」という回がある。殺し屋1を読みながら平気でメシ食える自分が、その回を読んだ時は、1回本を閉じて深呼吸をする程のアレ。


これの続編「糞尿タン /青林堂/松沢呉一も、引き続き面白いのですが、重版されてないようですね。もっとみんなこういうの読んで視野を広げたらいいのにぃ!!

書店業の画期的な生き残り施策事例

現在の「ぐろぐろ」は、ちくま文庫として出ていますが、もとは「ロフトブックス(星雲社)」さんから出版されていました。で、これについて、筑摩書房さんが「ぐろぐろを再版したい!」って言ったのではなく、「さわや書店」さんという岩手県の書店が増刷話を持ちかけたらしいです。

700冊買い取ること、Amazonでは売らないことなど異例な条件とともに、画期的な増刷は行われました。今では違いますが、その増刷当時、さわや書店さんとその他いくつかの書店さんでしかこの「ぐろぐろ」は買えなかったのです。

書店側が身銭を切って埋もれた良作の出版を依頼する

これが画期的です。「書店としてAmazonに対抗するには、Amazonにない商品を置く」……こんなムリゲーに一筋の光明が差す一手ではないでしょうか。

詳しくはこちら↓

おしまい