【スラッシャー映画】70年代テキサスを舞台にしたちょっとエッチなA24発殺戮ホラー「X」は、アイデアは良いが致命的欠陥がある。そこをカバーするプロモーションの力は、あらためて映画が産業であることを認識させられる………(*´Д`)
2022年7月は見たい映画が目白押しです!
その第2弾A24さんの『X エックス』を観てきましたのでネタバレあり&忖度なしで感想書きます。
第一弾『哭悲/The Sadness』(評価2:映画館で観るべし!)のレビューはこちら
※トップ絵はAIさんに作ってもらったイメージ「ナイフを持った農家の老夫婦は殺人鬼」
基本情報
まずは基本情報です。
- 若者が殺人鬼に襲われるスラッシャー映画
- 1979年アメリカのテキサスが舞台
- 2022年公開、アメリカ映画
- 監督:タイ・ウェスト
- 主演:ミア・ゴス
- R15+
ストーリー(あらすじ)
1979年、テキサス。女優のマキシーンとそのマネージャーで敏腕プロデューサーのウェイン、ブロンド女優のボビー・リンとベトナム帰還兵で俳優のジャクソン、そして自主映画監督の学生RJと、その彼女で録音担当の学生ロレインの3組のカップルは、映画撮影のために借りた田舎の農場へ向かう。彼らが撮影する映画のタイトルは「農場の娘たち」。この映画でドル箱を狙う――。6人の野心はむきだしだ。
そんな彼らを農場で待ち受けたのは、みすぼらしい老人のハワードだった。彼らを宿泊場所として提供した納屋へ案内する。一方、マキシーンは、母屋の窓ガラスからこちらを見つめるハワードの妻である老婆パールと目があってしまう……。
そう、3組のカップルが踏み入れたのは、史上最高齢の殺人夫婦が棲む家だった――引用:X公式サイトより
監督は、タイ・ウェストさん。
2005年に『The Roost』で長編監督デビューしたアメリカ人の方で、ホラー系をいくつも監督しており、得意なジャンルのよう。本作では脚本、製作、編集も手掛けているようです。製作会社は『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』など攻めの作品でおなじみのA24。
作中で作ろうとしている映画はポルノであり、刺激の強い性愛描写がみられる、とのことでR15+指定されています。
この作品、早い段階で三部作になることが決定したとのこと。次回作はこの惨劇の前日譚、パールおばぁの若い頃の話のようです。
劇場
TOHOシネマズ系などけっこう大手の映画館で上映されますね。上映劇場の詳細については以下の公式サイトでご確認ください。
予告映像です。
良かった点
最終的な評価は好みで判断させていただきますが、まずは良かった点を述べます。
※以降ネタバレありで書きますのでその点ご注意ください。
殺人鬼設定
一般的なスラッシャー映画の襲う側のアイデンティティーは暴力であるのに対し、そのイメージから最もかけ離れたヨボヨボの老夫婦を「防御力ゼロの殺人鬼」とした点は斬新です。
セクシーコマンドー(不意打ち)と銃さえあれば殺人鬼に年齢制限などないことを証明し、お年を召した方々に勇気を与える作品ではないでしょうか。
高齢であることのデメリットをリアルに描いていた、
ハワード(おじい)ビックリで心臓マヒ
パール(おばあ)ショットガンで腰いわす
ここ最高です。
また、老いる事への恐怖もテーマとしており、なかなかホラーでは描かれなかったかと思います。
カットイン転換
正式名称は分かりませんが、場面転換の時に一瞬だけ次の場面が3回ほどカットインされて切り替わるってのありましたが、あれは発明ですね! 凄惨な情景を一瞬だけカットインさせて怖さをあおるのがよくある手法になってきたので、「いま何か怖いモノが映った!」となってしまう観客の条件反射を逆手に取った斬新なエフェクト演出法です。
この方法をX転換と名付けて特許申請した方がいいと思いますよ、A24の人。
絶叫大賞2022
地下に閉じ込められた録音係のロレインさんの恐怖による絶叫は、その表情、音質ともに絶品でした。歴代トップ10に入る絶叫かと思われます。演じたのはジェナ・オルテガ(Jenna Ortega)さん19歳。
考察の余地
作品内では明らかにされない謎があり、そのあたりの考察余地がある点は妄想好きにはたまりません。
2つほど挙げておきます。
老夫婦の行動原理
農場の老夫婦ハワードとパールは、偶然立ち寄った人をターゲットにしているようで、自ら出向いていって攫ったり殺しに行くような積極的シリアルキラーには見えません(そんな体力もなさそうですしね)。
はじめにパールは監督RJに迫りますが、彼が熟女好きだったらどうなってたんでしょう。RJがパールの性欲をきっちり満たすことができたら今回の惨劇は起きなかったかもしれませんね(笑)。RJ殺害後のノリノリダンスによって、叶えられない性的欲求を殺害による興奮に置き換えて昇華している、と理解しました。
しかしRJで満足してしまったのか、その後のウェイン(ピッチフォーク刺し)とボビー(ワニの栄養)はあっさりです。ですが、夫ハワードとおっぱじめだしたので「あれ?満足してないんだ…」となりさらに謎です。
なんとなく、わがままに突っ走るパールを実は優しいハワードがフォロー・サポートするという関係性に見えました。が、ハワードが録音係のロレインを地下に閉じ込めたことをパールに「お前の分は地下に閉じ込めた」的な事を言っていたかと思います。つまり自分の分もある…ハワードには性欲とは別の殺人欲求がありそうに見えますね。
マキシーンとパールの関係性
マキシーンとパールが女優ミア・ゴスさんの一人二役である点がたぶんポイント。
パールはマキシーンのことを「特別なものを感じる」と言い殺そうとしないことも謎ですし、マキシーンに添い寝して何がしたかったのかも謎ですし、最後やっぱり銃で殺そうとする点も謎。
2回出てくる「2人だけの秘密」というワードにウラがありそうです。
“File:Mia Goth 2018 2.jpg” by MTV International is licensed under CC BY 3.0 .
ぱっと思いつくのは、二人が血縁関係(パールの孫かひ孫がマキシーン)であるみたいな設定です。お互い祖母↔孫の関係であることを知らずに殺しあっていた…だとしたらちょっと残酷ですよね。
レモネードを飲んだ時の「2人だけの秘密よ」は、マキシーン幼少期に実は二人が一度出会っていて、甘い飲み物を親から厳しく制限されていたマキシーンにパールがこっそりレモネードを与えて「秘密よ」と言う過去が実はあった……な~んて妄想が浮かびます。
このあたりの謎は後に詳しく妄想します。
感想
いろいろな感想(言いたいこと)があるのですが、あくまでも個人の感想です。「X良かったー!大好き!」という方はこの先読まない方がいいかもです。
いろいろありすぎたので箇条書きでまとめます。
- 「3組のカップルが撮影に訪れたのは史上最高齢の殺人鬼が潜む家だった──」という謳い文句そのまんまだった。(なんかひねりがあるかと思ったらなかった)
- 「死ぬほど快感。」というキャッチコピーが何か違う。
- ファーストキルまでが長い。
- 心臓麻痺以外に殺し方殺され方に新しさはなかった。
- 特にワニは違う。
- 死までのタメがない(少ない)ので怖くない。
- 老いをグロテスクに見せようとする姿勢に賛同できない。
- 老殺人鬼というアイデアは良いがやはり「勝てそう感」が勝り怖くない。
- 牧師の娘がミア・ゴスだったということが「驚愕の事実!」って程でもなく惨劇と結びついていない。
- パールとマキシーンが一人二役なのは驚愕ではあるが恐怖ではない。
- 次回作の予告があるからって1作目の価値が上がるわけではない。
- オマージュも良いがオマージュを観に来たのではない。
フィジカルで若者に劣る高齢老人がどのように殺戮るのか、その創意工夫を期待していたのですがいたって普通な殺りかたで、一言で言うと「う~ん、至極普通!」って感じです。以前こちらの記事でまとめた『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』よりも普通度が上です。
公式サイトやその他サイトのレビューなどでイイ評価のコメントが多いので、自分の感覚がおかしいのかとちょっと今不安になっています……。
夢を追う若者にノスタるとか、エロシーンがエロいとか、70年代がオシャレとか言ってますけどね、ジョジョ風に言うなら
エロとかオールドファッションを楽しみてぇーのなら別の手段で良ぃんじゃぁーねーか、ってことだぜ!!!
妄想でもして楽しもう
というわけであまり良い評価ではなかったので、せめて妄想で楽しむことにします。(読み飛ばしOK)
タイトル「X」の意味その1
Xはポルノを表す映画のレイティング、X factorで未知のとか特別な才能、XtasyのXなどと示唆されていますが、別の意味がありそうなのでそのあたりを妄想のタネにします。
ひとつめは性染色体のX染色体のXです。
パールおばぁが実はトランスジェンダー女性であったら衝撃的だなと思って観てました。美や性への執着、若さへの嫉妬、ビッチ嫌いなどへの振幅が強いのは、思春期のトランスジェンダーに対しての差別・抑圧のストレスが要因、みたいな感じです。マキシーン添い寝の理由は、TでLが発動した、または肉体の性(男)がTを越えて発動した、とかで説明がつきそう……な~んて妄想してました。
従来トランスジェンダーになる要因は胎児期のホルモン異常や思春期の環境など後天的なモノとされてきましたが、最新の研究では遺伝子要因(性染色体とは別の遺伝子の影響)であることがわかってきたそうです。
性の話とは別として、パールとマキシーンが血縁であり、殺人衝動は遺伝するものとして三作目でマキシーンがバッキバキのシリアルキラーに変貌したらちょっと面白い展開ですね。
そう、まさに 遺伝的継承 ですよ。
<7/29追記>
次回作予告が公開されました。パール役をミア・ゴスさんが演じているので、トランスジェンダー女性という案はまあなさそうです…
<追記終わり>
タイトル「X」の意味その2
二つめのXの意味はキリストです。
クリスマスをXmasと表記するように、Xはキリストを象徴する文字とされてきました。タイトルの意味として、キリストそのものよりC教という信仰そのものを表しているのではと妄想します。
ずっと劇中のテレビで流れている白黒の説教放送、あれが何かいかにも怪しいです。
ポルノや惨劇の対比アイテムとして使っているというよりは、2作目以降で絡ませてきそうなニオイがプンプンします。例えば行き過ぎた信仰が逆に人を不幸にする、みたいなテーマですね。若い頃のパールの性的指向(セクシャルマイノリティ前提)に対して家族や周囲が厳しく抑制しようとし(C教的に同姓愛は罪)、それに抗うためにやむなく殺しちゃうみたいな展開です。
細かく覚えていませんがマキシーンは「私らしくない人生は絶対嫌だ」的な発言をしていました。2作目でパールが殺人デビューを果たした後に同じ発言をしたらちょっと胸が熱いです。
3作目は、ストリップ・ポルノ出演や正当防衛とはいえ殺人を犯したマキシーンに対して改心させようとする(悪魔を追い払おうとする)毒親牧師軍が敵になります(妄想)。
絶体絶命のピンチに死んだパールが霊体としてマキシーンに乗り移り、そのスタンド能力で敵を殺りまくる……みたいな展開になったらきっと大好きな映画になります。
まとめ
いや実はですね、ミッドサマーの時から怪しいなと思っていたんですよ。ミッドサマーもけっこう話題になりましたが、ヘレディタリーと比べるとちょっと……というのが正直な感想でした。
今回も特にそうですがA24はプロモーションに力をかけていてかつ上手いですよね(キャンペーンやグッズ化、著名人コメントなど)。今までホラーに興味ない人達を集客する、ホラーファンの裾野を広げるという点においてはとても素晴らしい活動なのですが………。
レストランで、次の料理の材料や調理の工夫と味の感想コメント例とともに「食べた後こんなコメントを言ってもらえるとこの料理の感想としては適していて、あなたの味覚センスが疑われることはありません」と書いてある紙を渡されているような感じがふとして、5月にツイートしていたのが以下になります。
ふと思いついた言葉をつぶやいただけなので深い意味はありませんが、今はただ恐れていたことが実際に起きてしまった、という感覚です。
それでは個人的最終ジャッジを以下5段階から決定します。
1.円盤買って何度も観るべし!
2.映画館で観るべし!
3.レンタルされたら見てみよう
4.見放題で配信されたら見てみよう
5.見なくてよし
ドゥルルルルルルルルル……
デン!
4.見放題で配信されたら見てみよう!
しかもほぼ5よりの4で、「三作出揃った後にまとめて」という条件付きです。2作目、3作目で面白くなりそうな気配もしますが、この1作だけを評価するとこうなります。
スラッシャー映画は、日本の歌舞伎や能や落語や男はつらいよシリーズのようなある種様式美を備えた伝統芸能の域に達しているのかもしれません。「若者たちが殺人鬼に殺される」という展開がわかっていてもそこを楽しむ文化、その継承のためには王道(ベタ)でなければいけないのかもしれません。
ただ伝統芸能も、新作落語や新作歌舞伎のような変化や挑戦によって継続発展してきたことも事実。私が個人的にそのような新奇性を重視する性格なのでこのような評価になっちゃいました。最高齢殺人鬼というアイデアは良かったですが、それをうまく活かしきれていない印象だったのです。
つまり一番は敵が…
あんまり怖くなかったッスよね?
(恐る恐る…)
何かあれですよ。ジョン・カーペンター先生の『ゼイリブ』(古い)みたいに、みんな知らない間にA24星人に洗脳されていて、「良かった」って言わないと生きていけない社会になっていたら逆に怖いなぁ…って感情が芽生えたので……はっ!!…も…もしかして、そこが狙いですか!?
あ、誰か来た。
おしまい
次回予告…… セルビアンフィルム4K! 女神の継承! おたのしみに