【青年漫画:完結】強いられる残酷な試練と命の意味「なるたる」鬼頭莫宏/月刊アフタヌーン/講談社
2003年、今からもう15~16年前に完結した漫画です。
グロ鬱系は大好物なんですが…「なるたる」は、あんまり個人的に好きな漫画ではありませんでした。しかし、最近読み直して面白い点を見出すことができたりしたので取り上げてみようと思いました。
では行きます!
( `ー´)ノGO
ネタバレは……ありますよ。
「なるたる」基本情報
「なるたる」は、月刊アフタヌーンで連載されていた青年漫画。アニメにもなりました。
線の細いライトなアニメっぽいタッチですが、そんなタッチで描かれるグロシーンが話題で、トラウマになった人も多いことでしょう。
「なるたる 試験管」
「なるたる のり夫」
などで検索すると、どんな話かは多く出てきますので、ここでは触れません。
ただ、それ(グロさ)を目的とした漫画ではありません。
残酷な環境や展開に対面した子供たちの苦しみ・葛藤・選択等の心理と行動がリアルに描かれている「ヒューマンメルヘン」です。
最終的には、地球の命運に関わるレベルの展開となり、「セカイ系」漫画と言われたりもしています。
★作者:鬼頭莫宏(きとうもひろ) 全12巻
★月刊アフタヌーンで連載 2003年完結
★日本を中心とした現代が舞台
★「竜骸(りゅうがい)」という不思議な存在とリンクする子供達の話
★残酷なシーンや展開が特徴
★2003年アニメ化
★あらすじ
最初のあらすじはこんな感じ…
主人公、玉依秕(たまいしいな)は、明るく元気な小学6年生の女の子。
シーナは小学生最後の夏休み、祖父母が済む島へ帰省し、海水浴中に海で溺れてしまう。その時「竜の子・ホシ丸」に出会い助けられる。
「竜の子」は「竜骸」とも呼ばれ、空を飛んだり、自由に変形したり、武器を生成したりなど不思議で強大な力を持つ。竜の子自体に意志はなく、リンクした人間の意志・命令で行動する。
やがてシーナは、その竜の子の力を使って世界を変えようとするグループと対立、その他政府やアメリカなどの勢力との戦いにも巻き込まれてゆく…
ちなみにタイトルの意味は「骸なる星 珠たる子(むくろなるほし たまたるこ)」の略。タイトルもホシ丸も何かかわいい感じだし、「ワクワクドキドキのSFファンタジーだね!」(*´▽`*)…って油断していると、背後から突然、静かに刺されます。
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
★オムニバスっぽいところがある
月刊連載で12巻という、まあまあのボリュームがあるのですが、実は話の構成としてはオムニバス形式になっている部分があります。シーナの成長、竜の子のリンク者たちとの対立と世界の行く末~という物語の主軸はありますが、その周辺で登場する別のリンク者の話が間に挟まれます。
はじめ、これが分からなくて、「ん?なんか話のテーマがころころ変わるなぁ…」と、ちょっと読みづらさを感じていました。
★ほうき型の竜の子で空を飛ぶ人の話(5巻)
★いじめられっ子が竜の子で復讐する話(6巻)
★ロシアにいた成竜の話(9巻)
★軍から逃げてきたアメリカの竜の子の話(10巻)
ただ、整理してみると上記の4つくらいで、それぞれとも完全なサイドストーリーではなく、本筋の話ともけっこう関わってきます。「そういうものだ」と事前に理解しておくと、読みやすいでしょう。
★行間がかなり広い
物語の中で、設定や状況をあまり説明しすぎるのも醒めてしまいますが、「なるたる」は、けっこう説明しなさすぎです。未知なる存在の原理や目的がストーリー上「謎」であることはぜんぜん良いのですが、キャラクターの行動やセリフが、???なことがけっこうあります。
何回か読まないとわからなかったり、後からその理由がわかったり、原因等が描かれず推測するしかなかったりと、けっこう読み手の読解力、視点取得能力、妄想力が求められます。
「あーそういうことか」と気づくことなしに読むのをやめちゃった人も多いであろう少し損している漫画、かつ人によってけっこう好き嫌いが分かれるであろう超ツンデレコンテンツです。(デレはかなり少なめ)
そのへんを理解いただいた上で、最初に読まれる方は、ゆっくり読む事をおすすめしますですよ。
★作者:鬼頭莫宏さん公式ブログ
なるたるの【竜】とは?
わかりにくい「なるたる」を理解するには、まず【竜】の設定を理解しておくと良いかもしれません。
世界中で伝承されている神話や伝説に登場する「蛇」「竜」「各種怪物」等が、「なるたる」の世界では実在するものとして描かれています。
それの解釈は非常に面白いと思いました。
「竜」などの伝承につきものの宝物 = 竜の子の「物質構築能力」で生成された価値のあるもの
という説、とかね。
物語では、武器とか毒とか物騒なものを生成してバトルばっかりしてましたが、やろうと思えばたぶん紙幣やダイヤモンドなんかも生成できるんですよ、この能力。うらやまです。
でも、生物、命を生み出すことはできません。
その点、ジョジョのゴールド・エクスペリエンスは、命を生み出せるんだから、すごいよね。もう神サマの領域ですよ。
なるたるの世界の「竜」の設定を順を追って整理します。
☆「竜の子」「竜骸」と呼ばれる竜の幼生体がどうやって生まれるかは不明
☆「竜骸」は特定の生物とリンク(契約)する
☆その契約は変更・解除できない
☆「竜骸」自身は意志を持たず、リンク者の命令で行動する
☆「竜骸」は様々な物質の再構築能力を持つ
☆その能力を使い過ぎると早く「成竜」化する
☆「竜骸」はある一定量の物質再構築能力を使い切る、一定の時間が経過したら、またはリンク者自身の意思、またはまったくの気まぐれタイミング、などの理由で、リンク者の魂を取り込み「成竜」となる
☆「竜」になったらリンク者は「乙姫」という存在になり「竜」と同化する
☆「竜」の目的・能力は不明 星の情報の記憶・記録装置?
☆「竜」は人に干渉しない
☆リンク者が死ぬと「竜骸」も死ぬが「竜&乙姫」は死ぬか不明
「竜骸」が契約するリンク者は、人だったり動物だったり虫や植物などいろいろな生物から選ばれます。選ばれる条件や基準は不明。いずれリンク者は「竜」に魂を受け渡すことになるのですが、それまでは強大な力や宝物(希望するモノ)を得ることができます。
虫がリンク者に選ばれたら、何を希望するんでしょうかね?
「エサほしい…エサほしい…」とか? そうすると竜骸はエサを生成してくれるのかな?
設定は複雑ですが、とりまシンプルに【視点取得】するなら、
「あなたが強大な力を得たら何をしたいか?」
という視点で物語を読んでいくと良いのではないでしょうか。
「ただし力を使いすぎると死ぬ」
(魂を奪われる)という条件付きです。
※でも、なんかリンクすると竜骸の役目・使命みたいなものに強く影響されるっぽいので、あまり希望どうりにこの力は使えないのかもしれませんね。
よし、もう少しわかりやすくするために竜骸とスタンドを比較してみよう!
スタンド | 竜骸(竜の子) | |
---|---|---|
所持できる数 | 一人一体 | 一人一体 |
ダメージ | 本体に返る | 本体に返る |
見える? | スタンド使いにしか見えない | 誰でも見える |
独自の意志 | 持っている(場合もある) | 持っていない |
射程距離とパワー | 距離とパワーは反比例 | 遠距離でもパワー強 |
使用期限 | 本体が生きている限りなし | 使いすぎると魂を奪われる |
具現化能力 | △ニガテ | ◎超得意 |
デザイン | けっこう複雑 | わりとシンプル |
発現要因 | 生まれつき・特定の矢で傷つけられる | 突然降りてくる |
歴史 | 1980年代あたりから | 太古の昔から存在 |
物理攻撃 | 効かない | 効く(本体に) |
こう見ると「竜骸」は、けっこうリスク高いっすね。
結論:ずっと使えるスタンドの方がいいね!
※ただしパープルヘイズは嫌だ。
「なるたる」を好きになれなかった理由
ファンの方には先に謝っておきます。
ごめんなさい。
m(__)m
正直に言いますが、「なるたる」は、けっこう最初の頃に読むのを止めてしまいました。で、しばらくたってからまた読み直しましたが、やはり途中で本を閉じてしまいました。そして漫画が完結後、一応最後まで読みましたが、やっぱり「う~ん…」って感じでした。
グロや鬱展開はぜんぜん問題なかったのですが、個人的にダメな理由がありまして。
それはですね、【どこかで見たことあるアイデアや展開があると萎える】です。
ミメーシスという哲学も理解できますし、これだけコンテンツが成熟してきた現代で、「完全オリジナリティな創作」はもう不可能とさえ思えます。なので、多少の「見たことある感」はしょうがないと思います、「多少であれば」ですよ。
個人的な感じ方なので、人によってはそうでないかもですが、「なるたる」は、『どこか…いやかなり、エヴァンゲリオンっぽいな!コレ!』でした。どこがどうとかは触れませんが、けっこう始めから終わりまで、そして主軸に関わるところ、すなわちもう全体的にエヴァだな、と感じました。
そうなってしまうともうダメで、いろんなシーンが「どこかで見たモノ」に思えてきちゃったのです。たくさんの成竜が出現するシーンが、バスタードの破壊神群に見えたり、須藤君というキャラクターがゴミをポイ捨てした人を撃ち殺しちゃうところは、寄生獣の広川市長さんのセリフからだろうなぁと思ったり、人間という存在がどうしようもなく価値のないものとして扱われてしまうのはデビルマンだったり、薬で起こされるのり夫くんは、「あ○○○○○き」っぽいとか……。
はい、決めつけはよくありませんので、ここでひとつアフタヌーン編集部の視点で妄想してみよう。
「SF的な作品が強いアフタヌーン」でもあるし、コンテンツ産業に関わる人たちが、当時話題になって盛り上がっている「エヴァンゲリオン」を見てない、知らないとは思えません。「なるたる…エヴァっぽくね?」という意見は絶対出たはず。何故これにGOサインが出たのでしょうか?
シンプルに「売れてるモノに乗っかれ!」戦略だとしたら、漫画に限らずどの業界でもあることだし、商売というものを考えると、常識の範囲内であれば、それをダメとは言いません。ただ、あのアフタヌーンさんがそこまで短絡的とも思えません。
推測します。
連載が始まる1990年代後半、まだインターネットサービスも浸透していなく、電子書籍や海賊版の脅威は見えていなかったとは思いますが、確実な脅威として「少子化」は見えており、雑誌や単行本が売れなくなる時代がまさに始まっていたのです。
そんな中「エヴァンゲリオン」のヒットは、それまでアニメや漫画に興味を持たなかった人が興味を持ってくれる、業界全体にとって貴重なチャンス・起爆剤でした。会社が違うから「これ以上売れるな!」ではなく、「もっと盛り上がれ!」という心情だったのではないでしょうか。
出版不況の打開策の一つに「世界市場を見据えた海外戦略」があります。そこを踏まえると、日本は世界に対して「エヴァンゲリオンみたいな面白いコンテンツがまだまだ日本にはあるぜ!」としておきたいのです。業界各社としては、「パクリだ」と言われても構わないから、以下の2つの目的で、エヴァ寄せのコンテンツをこぞって生もうとしていたのだと思われます。
①この強いムーブメントをできるだけ継続・拡大させる
②世界で亜流が生まれる前に日本で先んじておく
この判断は正しく、評価します。動機は何であれ優れた作品が多く生まれたと思いますしね。で、アフタヌーンとしての一の矢が、ロボ・SF寄りの「砲神エグザクソン」、その二の矢が人間描写&謎寄りの「なるたる」(当然ロボはなし)だったのでしょう。で、まったくエヴァと同じではダメなので、何かでエヴァに差をつけなければいけない……そこで下されたオーダーが「徹底的に【残酷】で行けっ!残酷さでエヴァに負けんなっ!」だったのではないかと。
※出版不況の打開策その2:クロスメディア戦略(=まずアニメ化)は当然考慮されており、エグザクソンもなるたるもアニメ化しやすいタッチが選ばれていると予想。
結局何が言いたかったのかと言うと、「なるたる」のエヴァっぽさは鬼頭先生だけの独断ではなく、編集部の意向も多分にあったのではないかという、あくまでも妄想です。本当のところはわかりませんよ。
※今では「エヴァ」はもう一つの「ジャンル」としていいのでは、と思っています。
お気に入りシーン
「あれ?…気づいたらいつの間にか背中刺されてる…」的な、静かに心をえぐる2つのお気に入りシーンを紹介します。
★小森君のセカイ論(2巻)
竜の子の力を使って人類を淘汰しようとするグループ「黒の子供会」のメンバー小森君が、シーナの友達、佐倉さんを仲間に誘おうとしている時に言ったセリフ。
「自分が世界のどこにもあてはまらない時どうすればいい?
世界のカタチにあわせて自分を削るか
自分のカタチにあわせて世界を削るか
あんたはどうする?」
小森君たちは、自分(たち)が世界にあてはまっていないことは自覚していて、世界を削ろうとしています。でもそうすると多くの人たちが、逆に自分を削ることになります。まぁ、そこの矛盾も理解していて、単なるワガママではあるのですが、ほとんどの人が自分を削らざるを得ないこの世の中で、「世界を削る力」を持ったとしたらどういう行動を取るのか?を自分自身に当てはめて考えてみると面白いですね。「世界」を、「学校」や「会社」「家族」に置き換えてみると良いでしょう。
私は…自分を削りまくってますね……鬱
ちなみに主人公のシーナたんは、世界のカタチそのものをなくしてしまいました。発想が柔軟ですね!素晴らしい!
★須藤君は意地が悪い(5巻)
同じく「黒の子供会」のリーダーで、【あんたそりゃないでしょ大賞】で大賞を受賞した須藤直角(すどうなおずみ)君の話。須藤君は、ある日シーナと佐倉さんを誘い、釣りに行きます。シーナと佐倉さんは釣りを十分に楽しみました。最近大変なこともあったのですが、釣りの時には笑顔になれました。帰りの車の中、シーナは疲れて寝ています。
須藤君は佐倉さんに突然ぶっ込みます。
須藤:「どうだった佐倉さん」
佐倉:「え…あ…はい たのしかったです」
須藤:「そうだね 生命をもてあそぶのは 楽しいよね」
佐倉:(-_-;)
この後いろいろ講釈をたれて佐倉さんを仲間に誘うのですが、いや須藤君、引くよぉ~! これ言うために釣りに誘って、1日付き合ってくれたの? いやムリムリムリムリっ絶対引くって!! 全世界のアングラーを敵にまわす鬼頭先生の度胸&須藤君のイカレっぷりがよくわかったそこシビシーン※1でした。
※1「そこにシビれるあこがれるゥ」シーン
ちなみに、結果この誘いに乗っちゃう佐倉さんもコワれ気味ですこティッシュフォールド。
「なるたる」のオリジナリティとは?
物語を創作するにあたって、「画期的な話の展開」や「世界の設定」や「キャラクターの個性」などなど、その作品の核・キモとなる、そしてその作品にしかない【オリジナルアイデア】が、どれだけ重要であるかは、読み手のみなさん、そして当然作り手側も重々承知していると思います。
ONE PEACEの「ゴム人間」
ジョジョの「スタンド」
もやしもんの「菌が肉眼で見える」
とかね。
エヴァの話はいったん横に置いておいて、「なるたる」のそれを見いだせれば、作品の捉え方も分かり、親近感が沸くのではないでしょうか。
ちょっと考えてみまして、2つ提案させていただきます。
★1:残酷展開
「残酷表現」ではなく、「残酷展開」です。
「HUNTER×HUNTER」のハンター試験時の、【母親と恋人どちらかしか助けられない、どちらを選ぶか?】みたいなことです。
読んでいけばわかりますが、主人公のシーナには、それはもうかなりキッツい残酷な試練が次々と降りかかります。でね、何が一番残酷かって言うと、ネタバレになっちゃいますが、「人類滅ぼすか滅ぼさないかシーナちゃんが決めてね」という判断(役割)を求められちゃうところです。普通の女子中学生にはキッツい役割ですが、これは普通100%【滅ぼさない】一択ですよね。
どんなに自分がつらい目にあっても、友達やその家族や見知らぬ良い人たちに、「お前ら滅べ」って、もちがっても言えませんよね。最後シーナは、人間たちに殺されそうになっても、滅びを選ばず、自分が死ぬ事の方を選択します。
でもね、結局、涅見子(くりまみこ)ちゃん(シーナと対であり同一でもある存在)が、世界滅ぼしちゃうんだけど、シーナはそれを止めません。【人間滅んでもいいや】判断を下しちゃったのです。
ここに至るまでの試練は残酷ですが、最後のこの選択(判断)だけは残酷ではありません。
【人類存続】を選択したら、永遠に迫害され、命を狙われ続けるという最悪のバッドエンドしか残ってないですからね。世界中の人類の死と引き換えに、シーナはクリちゃんと子供たちとで一つの小さな、でもたぶん幸せな家族を手に入れます。それはシーナの夢でもありました。
人が多く死ぬという意味では「残酷」であるが、シーナが迫害されず命を狙われない世界を手に入れたという意味では「ハッピーエンド」だと思うのです。気に入らなかったらまた作り変えるって、クリちゃんも言ってくれたしね。
命はかけがえなくない
この思想が鬼頭先生の根底にあるっぽいのですが、それを漫画に落とし込むためのアイデアが、この「残酷展開」かもしれません。
宮崎アニメに出てくるような天真爛漫で明るく元気な女の子が、どうやったら「世界滅べ」と思うようになるか、かつハッピーエンドで終わるか(命の替わりはきくということをアリだと思わせる)。
というのが原アイデアだとしたら、なかなかに難しいチャレンジをされたのだなぁと思いました。
漫画が終わってみて、その試みは「大成功」とは言い難い認識ですが、この考え方に気づいてから「なるたる」の評価が私の中で勝手にアップしました。
★2:地球の成り立ち新説
もう一つ別の視点で。
蛇が自分のしっぽを飲み込んでいる「ウロボロス」という古代のシンボルがあります。全てのものが一つにまとまる「全一思想」や、「循環・永続」「無限」「完全性」など、多くの文化や宗教で用いられてきました。(最終話の扉にもデザインされていますね)
この「ウロボロス」には、2匹タイプの図案があります。それぞれの蛇が相手のしっぽを飲み込んでいます。意味合い的には同じですが、「陰と陽」「生と死」など、対となるものが統一され、世界そのものをあらわすシンボルとしては、よりわかりやすくなっているのではないでしょうか。
地球という惑星の成り立ちが、「ガスと塵とでできた微惑星の衝突リピート」であることは、現時点の科学的な常識ですが、誰もそれを見たわけではありません。
「2匹の蛇」というデザインは、あくまでも象徴であり、記号ですが、【もしも地球が塵から生れたのではなく、本当に2匹の蛇(竜)でできているとしたら】という着想が「なるたる」という物語の原アイデアだとしたら、非常に面白いアイデアです。
※上記の2つは、私の勝手な妄想で、実はシンプルに「竜が実在するとしたら」とかかもしれません。または、「女子中学生が性交して妊娠して喫煙してもPTAから文句が出ないようにするには」とか。これだとしたら大成功ですね。
「なるたる」おまけ考察
この点もエヴァっぽいのですが、物語上いくつかの「謎」が提示され、それが説明されていないので、さまざまな考察や議論がなされています。
いろいろ見てみましたが、下記の2サイトがとても参考になりました(というか入り込み度合いがヤバい)。いくつか分からなかった事が解決しました。何度か読んでわからない所がある場合は、ここを読んでみると良いでしょう。
★鬼頭莫宏作品ファンサイト「滑走キ」
19/3/31サイトなくなっちゃった。
★デカダン日記(「なるたる」のわからないところを解説するサイトではわからないところを解説するサイト)
ほいじゃぁ、わっちも考察っぽいのひとつ書いてみるんす。
例によって妄想なんじゃよ~。
「竜骸」っていう存在は、魂ないのに、物質再構築できたり、自衛隊とかでもなかなか太刀打ちできない、めっちゃ不死身でつおい存在。
主人公の「秕(シイナ)」という名前は、美園ママが名付けたそうですが「中身が無い実」、「実ることのない種子」というネガティブな意味を持っています。でも、登場人物の中ではある意味一番純真・素直で強い心の持ち主だと思います。
シーナたんは当然魂があるのですが、あくまで概念として「魂・中身がないものほど強い」という点で上記の2つは共通しているな、と思いました。
作者の鬼頭先生は、一時期心が弱っていたそうで、【心さえなかったらこんなに苦しむこともないのに】という願望の表れが、「竜骸」という存在、「秕」という名前を生んだのではないかなぁ…という勝手な妄想です。
しかし、物語の中で「竜骸」を使役する鶴丸君や須藤君たちは「竜」になること=魂を無くしてしまうことをあまり望んでいないようです。
須藤:「竜……乙姫になるのも願い下げだ」(第65話)
鶴丸:「いざとなりゃ 竜になるさ」(第66話)
「乙姫」になると魂は「竜」の思考回路として持っていかれ、永遠に竜の一部として同化し、たぶん不死的な存在になるのではないでしょうか。死なない事=輪廻の輪から外れる事となり、仏教で言うところの「解脱」状態、心の弱さを捨て去るとも同義で、むしろ喜ばしいことではないかと思います。
しかし、鬼頭先生にとっての現実的な問題として、いくらつらいからと言って「魂・心」を捨て去ることを願ったとしても、そんなことはできません。
その葛藤が、また「心をちゃんと持ったままいつか改善してやる」という気持ちが、リンク者達の「竜化否定」に表れていたのではないでしょうか。
そんな視点で見ると、鶴丸君の「いざとなりゃ 竜になるさ」は、「いざとなりゃ 死ぬだけさ」とも読めて、ぞっとします。
★まだまだ解けない謎
他にも語られていない謎がいろいろあります。例えば…
・竜の子はどうやって生まれるのか?
・クリちゃんはなぜ大気圏突入葬が好きなのか?
・核祭りの時になぜ成竜たちが姿を表したのか?
・地球が成竜化したらどうなるのか?(11巻の表紙でシーナが乙姫化している)
これから読む人は、ぜひこのような謎を妄想してみてください。
最近気づいた面白い点
最近読み直して、面白い点が2点ほどあったので書きます。(この記事の冒頭で触れたやつです)
★1.魂の線引き
まず、作品とは関係なく、「死体」の言い方っていろいろありますよね。「遺体」とか「死骸」とか「仏様」とか「骸(むくろ)」とか「亡骸(なきがら)」とか…。
「死骸」って動物とか虫には使うけど、ヒトには使いませんね。動物は「死体」って言うけど、魚とか虫ってあんまり「死体」って言わないですよね。で、植物なんかは「死体」とも「死骸」とも言いませんね。なんなら「死んだ」と言わずに「枯れた」って言いますよね。(学術的に「植物遺体」という言い方はするそうです)
この、種による「死体」の言い方が【魂・心】の有り無しラインと関係しているとしたら、とても面白いなと考えました。「唯一【死骸】と言わない人にしか【心】はない」とかね。
↓現時点の私の認識です。
でも、どこまでの種が魂や心を持っているのかなんてのは、まったく解明されていません。(そもそも魂があるかどうかでさえ)
で、なんでこんな事を考えたかというと、11巻で世界中が核攻撃にさらされたときに、たくさんの竜が姿を表すシーンを見て思ったのです。
11巻61話でいろいろな成竜と乙姫が登場しますが、その乙姫=魂を持っていかれた存在は、いろいろな生物が選ばれており、そのうちの一つにシダ植物っぽいものがありました。乙姫になったということは、そうなる以前は「魂」があったということです。
なるたるの世界では、
魂的なモノは存在し、それは全生物にある
と描かれているところが、最近気づいた面白いと感じた点の1点目です。
最近世界では、ベジタリアンのもうちょいランクアップしたもので「ビーガン」なるスタイルが増えてきているそうです。「ビーガン(ビーガニズム)」は、いろんなタイプがあるそうですが、基本は「絶対菜食主義者」であり、動物性の食事(肉だけでなく魚も乳製品も卵もハチミツも)を一切摂らずに暮らす人たちです。食べ物だけでなく、衣服なども革や絹を使わないそうです。
基本は「人は動物から搾取して生きるべきではない」という考え方に基づいているのですが、「植物はいいの?」って思っちゃいます。他人の主義をどうこう言うつもりはまったくありませんが、彼らにとって植物は「苦痛も心も魂も一切ないから搾取してOK」な存在なのでしょうね。
なるたるのこのシーンを見たら、「チガーウ!!植物は魂ないから乙姫にならないヨー!!訂正シテーー!!」とか言うのでしょうか。
注:ビーガンの方々をディスるつもりは一切ありません。動物の苦痛を分かってあげられる、とても優しさあふれる素晴らしい主義だと思います。でも、一部の過激な人がお肉屋さんを襲ったりしているそうです。それはダメですよ。動物の苦痛を分かってあげられるなら、お肉屋さんの苦痛も理解しましょう。
★閲覧注意★
フランスのビーガン推進団体「269LIFE FRANCE」の街頭デモ動画
★2.「もひろ割り」の有効性
鬼頭先生の漫画のコマ割り(漫画の枠線のことね)はちょっと独特で、通称「もひろ割り」と呼ばれています(呼ばれていない)。例外もあるので何とも言えませんが、基本、幅が狭いところがシーンとしてつながっているコマで、コマの読み順をガイドしてくれる役割があります。親切ですよね。
大きいコマに複数の小さいコマが接している時に、次に来るコマが近づいています(=間隔がせまい)。大きいコマの前後でも左右でも基本同様ルールで描かれています。具体的にどういうことか、図で説明します。
★「もひろ割り」の例<その1>
★「もひろ割り」の例<その2>
見ていただくとわかると思いますが……すいません……日本の漫画を読み慣れた人であれば「そうしなくても読める」んです。あえてコマをずらすことで、不安定感や変な緊張感みたいなものを演出しているのかな、とも考えましたが、「のりりん」みたいな日常系も同じでした。
ということで、この技法の有効性をあまり感じられていなかったんですが、最近読み返した時に有効(っぽい)点が一つ見つかったので紹介します。
ページの下半分くらいに、同ボリュームの4コマがあったとして、普通の読み方「上2コマ→下2コマ」ではなく、「タテに右の2コマ→左のタテ2コマ」って読ませたいときに、この【もひろ割り】が有効かも!と思いました。
まあ図で見てください。
ね?ちょと有効っぽいでしょ?
……ただですね、コレひとつ弱点がありまして……
事前に【もひろ割りルール】を知ってないといけない
んです。
ちなみにこのページは、12巻の第64話「父」の最初のページです。シーナのお父さん俊二パパが、シーナのお姉さん実生(みしょう)のことを回想しているシーンです。
①実生が母に「男の子かな? 女の子かな」
②実生が「お父さん どっちがいい?」
③俊二が「別にどっちでもいいよ 元気なら」
実生が「つまんない答え━━」
④実生が「男の子なら 自衛隊に入れてパイロットにさせよう」
⑤俊二が「こんな根無し草人生かわいそうだろ」
実生が「あたし引っ越しきらいじゃないよ 転校も」
仕上がったページ見てみると、吹き出しとか構図のバランスとか、ベストに感じます。通常のコマ順を崩してでも、構図と絵を優先している……という鬼頭先生の絵のこだわりを感じることができて、良い発見でした。
まとめ
「なるたる」をこれから読まれる方へ、おすすめの読み方です。(あくまでも参考)
①1回目:できるだけゆっくり読みましょう。「エヴァっぽい?」と思ってもガマン。「グロいのダメ!」「自分が鬱になりそう…」って思ったら無理せず中止してください。
②2回目:それでもわからない点がどこか書き出しながら読む。(書き出し点が多すぎたら3周目にしましょう)
③解説サイトを巡って不明点をつぶす。
④3回目:全体分かった上で読み通してみて【好き嫌い】【良し悪し】を判断してみましょう。
「なるたる」は…
★戦闘機や兵器好きの人にはおすすめ
★謎で未知の存在とバトる展開が好きな人にはおすすめ
★地球の命運が一人の少女に託された!的な話が好きな人にはおすすめ
★もうすぐ子供が生まれるお父さんに読んでほしい
★「かけがえのない命」は「自分にとっての自分の命」だけ
注意喚起のための…
★トラウマポイント
・過度ないじめのシーンがあります。
・青少年の嘔吐・失禁・性行為描写(近親相姦及びレイプ含む)があります。
・性同一性障害、色情症の人物が苦悩するシーンがあります。
・親しい人及び見知らぬ人が死ぬ、殺されるシーンが多くあります。(後半になるほど加速度的に)
・お婆さんが戦闘機に乗って強烈なGにさらされます。
・実は姉がいたことを両親が隠してた。
鬼頭先生の次作「ぼくらの」も、似たようなダーク展開の漫画ですが、作品としては「ぼくらの」の方がおすすめです。またいつか紹介したいと思います。
でも、ウマコン度は「なるたる」が2ランクくらい上です。
【勝手にマリアージュ】~このマンガに合う曲~
amazarashi(アマザラシ)さんの「命にふさわしい」
これしかないでしょ!
歌詞をよく聞くと、いろいろドンピシャすぎて鳥肌ーー!
映像も「なるたる」っぽいところがある…
★amazarashi official HP
一つの長い記事の後の 二つの短い記事の後の
言いたいことはだいたい言ったので、以下は読まなくて良いですよ。
蛇足…いや「竜足」です。(?)
★ウマコン的ではないが個人的に好きなシーン
↑最終話、崩壊した世界でタバコを吸うシーナと、その回想。
朝ごはん作りながら シーナ 少し照れながら 「ね お母さん タバコ吸って」
美園ママ 「ええ」 と静かにタバコ吸う
コレもう泣きそう
(…というか泣いた)
( ;∀;)
★垣原先生による「なるたる」講評
最後に、垣原先生に講評をいただきました!
「……なんかよくわかんねぇな、このマンガ。でも、何だっけ?【豚食い】だったか? あいつはちょっとセンスあるな。でも、最後はダセェけどな、ハハッ(笑)……ま、人の事言えねぇか」
「…あとあれだ。【宇宙プレイ】な。アレって一体どうなっちまうんだろぅな? ハアハア……あぁん!? プレイじゃねぇのアレ? 先に言えやーーっ!!(怒)」
(スポークでブスーーッ!!)
あ…ありがとうございました……(血)
「良い子は早く寝なさい。そうしないと豚食いが来ちゃうよ!」
絶対押すなっ!! (#゚Д゚)ノ押したらケツの穴から竜骸ィ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたるで!!
※ビーガン、またはその他菜食主義の方、各種出版社、鬼頭莫宏先生、鬼頭先生作品のファンの方々をディスろうとする意図は一切ありません。
※本当のトラウマで苦しまれている方々を軽視したり、蔑ろにするような意図は一切ありません。
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